国産ノンアルコールビールの「先駆者」5社の歴史|キリン・サントリー・アサヒ・サッポロ・宝の挑戦

国産ノンアルコールビールの缶が5本並ぶ歴史年表のイメージ ノンアル
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うちの冷蔵庫を開けると、いつもキリンの「グリーンズフリー」とアサヒの「ドライゼロ」が並んでます。気分でサッポロも買う。当たり前のように選べる今の状況、実はほんの15年前までは存在しませんでした。

2009年、キリンが「キリンフリー」を出したとき、世間は本気でざわついたんです。アルコール0.00%なのに「ビールっぽい」飲み物が出てきた、と。あの一本がなければ、今の数百種類あるノンアル棚は生まれてなかった。

この記事では、日本のノンアルコールビール市場を切り拓いてきた5社、キリン、サントリー、アサヒ、サッポロ、宝ホールディングスの歩みを時系列で整理します。各社が何を考えて、どんな製品を出して、何を変えたのか。業界で15年ノンアルを追ってきた立場から、できるだけ正直に書きます。

なぜ「先駆者5社」なのか、その定義から

まず前提を整理させてください。日本のノンアルコールビール市場は、2009年を境に「BEFORE/AFTER」がはっきり分かれます。それ以前にも「バービカン」や「ホップス」のような商品はあったけれど、市場と呼べる規模ではなかった。

1980年代の黎明期についてはバービカンが果たした役割をまとめた記事で詳しく書いたので、ここでは「キリンフリー以降」を主軸に話を進めます。

先駆者の定義をこの記事では4つに置きました。第一に、自社で独自製品を開発・販売していること。OEMや輸入販売は除外します。第二に、10年以上継続して市場にコミットしていること。第三に、技術・規格・マーケティングのいずれかで業界に「最初の一歩」を残していること。第四に、現在も主力ラインを持っていること。

この4条件で絞ると、キリン、サントリー、アサヒ、サッポロ、宝ホールディングスの5社が残ります。オリオンやヤッホーも素晴らしい銘柄を出していますが、市場形成への影響度という意味では、この5社が圧倒的でした。

5社を一覧で見るとこうなる

メーカー代表的初号機発売年業界への功績
キリンキリンフリー2009年世界初の0.00%実現、市場創造
サントリーオールフリー2010年カロリー・糖質ゼロを定着
アサヒダブルゼロ→ドライゼロ2010年→2012年大手最高シェア、定番化
サッポロプレミアムアルコールフリー2010年麦芽100%路線の先駆
宝ホールディングスのんある気分2010年チューハイ系ノンアルの開拓

こうして並べると、2009〜2010年の2年間に集中して各社が動いたのが分かります。これは偶然ではなく、2007年に施行された改正道路交通法、いわゆる飲酒運転厳罰化が大きな引き金でした。社会が「飲まない選択」を求め始めた瞬間、各社が一斉に動いたんです。

キリン|「キリンフリー」で世界初の0.00%を実現した革命

2009年4月8日、キリンビールが「キリンフリー」を発売しました。世界で初めて、アルコール度数0.00%を実現したビールテイスト飲料です。ここから日本のノンアル時代が始まった、と言って差し支えありません。

それまでのノンアルコールビールは、海外の脱アルコール製法で作られた0.5%前後の商品が中心でした。日本で「ノンアル」と名乗れる基準は1%未満なので、0.5%でも法的にはノンアルです。でも飲酒運転厳罰化の後、消費者が求めたのは「絶対に0」だった。キリンの開発チームはそこを正面から取りに行きました。

製法は発酵を一切させない「調合製法」。麦汁にホップ抽出物や香料を加えて、ビールの風味を再現する方式です。発酵させないからアルコールは1滴も生まれない。理論上「0.00%」と言い切れる。

発売初年度の販売目標は630万ケースでしたが、需要に供給が追いつかず、一時出荷停止になるほど売れました。最終的に1,000万ケースを超え、社会現象と呼ばれるレベルになった。キリン1社だけで、それまでのノンアル市場全体の数倍を一気に作ってしまった計算です。

キリンフリーから「グリーンズフリー」への進化

キリンフリーは2018年に役目を終え、「グリーンズフリー」へバトンを渡します。これは香料・酸味料・甘味料を使わない「無添加」路線への方向転換でした。消費者の関心が「0.00%」から「中身の安全性」に移ったのを察知しての判断です。

グリーンズフリーの設計思想については無添加製法の秘密をまとめた記事で深掘りしましたが、「素材を引き算する」という発想で作られた一本です。キリンフリーが「0.00%を作る」革命だったとすれば、グリーンズフリーは「中身を磨く」革命でした。

2022年には機能性表示食品「カラダフリー」も追加。お腹の脂肪を減らすのを助ける熟成ホップ由来苦味酸を配合し、機能性で勝負する路線も同時並行で走らせています。1社で「味」「無添加」「機能性」の3軸を持つのは、現在ではキリンだけです。

サントリー|「オールフリー」がカロリー・糖質ゼロを定着させた

キリンフリーから遅れること約1年、2010年9月にサントリーが「オールフリー」を投入しました。後発でしたが、サントリーが切ったカードは「アルコール0.00%、カロリーゼロ、糖質ゼロ、プリン体ゼロ」の4つのゼロ。これが完全に時代の空気と合致した。

2010年前後はメタボ健診の本格運用が始まったタイミング。健康診断の数値を気にする中高年男性が、ビールを我慢する代わりに飲める一本を探していた。オールフリーはそこにピタリとはまりました。

原料は天然水、麦芽エキス、ホップ、香料。発酵を行わない調合製法という点はキリンフリーと同じですが、サントリーは「天然水仕込み」を前面に押し出してプレミアム感を出しました。同社の「南アルプスの天然水」ブランドとの相乗効果もあり、清涼感のあるイメージが確立した。

15年で何度もリニューアルした「進化の系譜」

オールフリーは2010年の発売から、ほぼ毎年のようにリニューアルを繰り返しています。ホップの配合変更、麦芽量の調整、香料のチューニング。表面上は同じ缶に見えますが、中身は別物に進化してきた。歴代リニューアルを時系列で追った記事を読むと、サントリーの執念が見えてきます。

派生製品も多く出しました。「からだを想うオールフリー」(機能性表示食品)、「オールフリー ライムショット」、「オールフリー コラーゲンリッチ」など。1ブランドでこれだけ派生を持つのは、ノンアル業界では異例です。

個人的にうちの夫はオールフリー派です。「香料感が一番穏やかで食事と合う」って。私はキリン派なので、いつも冷蔵庫の中で並んでます。

アサヒ|「ドライゼロ」が10年連続シェアNo.1を獲得した理由

アサヒは2010年に「アサヒダブルゼロ」を出して参戦しましたが、初代はそこまで売れませんでした。本格的に化けたのは2012年2月発売の「ドライゼロ」から。看板ブランド「スーパードライ」の名前を、ノンアル領域に持ち込んだのが効いた。

ドライゼロのコンセプトは明快で、「ビールを飲んでいるような満足感」。キレ、のどごし、ドライな後味、すべてスーパードライの設計思想を再現しています。発売以来、ノンアルコールビール市場で10年以上シェアNo.1を維持し続けている怪物です。

なぜここまで強いのか。ドライゼロが売上No.1であり続ける3つの理由でも詳しく分析しましたが、ざっくり言うと「ビールに最も近い飲みやすさ」「居酒屋採用率の高さ」「コンビニ流通の強さ」の3つが効いてます。特に外食での採用率はずば抜けています。

微アル路線「ビアリー」でもう一度先頭を切る

アサヒは2021年3月、業界に新たな衝撃を投下します。アルコール度数0.5%の「アサヒビアリー」を発売。これは「ノンアル」でも「ビール」でもない「微アル」という新ジャンルを日本で確立した一本でした。

ビアリーの製法は発酵後に脱アルコールを行う「脱アルコール製法」。実際にビール酵母が働くため、ビール本来の風味が残る。ただし0.5%なので、酒税法上は「リキュール(発泡性)」扱いで酒類になります。20歳未満は飲めないし、運転前もアウト。でも「ビールの風味を限りなく残したい」という需要に応えた。

ビアリーの登場で「ノンアル vs 微アル」という構図が生まれました。これは日本のNoLo(ノー・アルコール&ロー・アルコール)市場の成熟を象徴する出来事だったと思ってます。アサヒは1社で「ノンアル」と「微アル」の両方の旗を立てた稀有なメーカーです。

サッポロ|「プレミアムアルコールフリー」で麦芽100%路線を提示

サッポロビールも2010年に「プレミアムアルコールフリー」を発売しています。他社が「ゼロ・ゼロ・ゼロ」と引き算で勝負する中、サッポロは「麦芽100%、副原料不使用」という足し算で勝負しました。

この方針はサッポロの本流ブランド「ヱビス」「サッポロ生ビール黒ラベル」の設計思想と同じです。麦の風味を真正面から出す、職人気質のビール作り。それをノンアルにも持ち込んだ。マスメディアでの露出は控えめでしたが、ビール好きの間で「サッポロのノンアルは麦感がしっかりしている」と評価が固まっていきました。

2018年には「うまみ搾り」を発売。さらに2020年には「サッポロ ザ・ドラフティ」というアルコール度数0.7%の微アルも投入しました。サッポロもアサヒ同様、ノンアルと微アルの両方を持つ体制になっています。

「派手じゃないけど信頼できる」という立ち位置

正直、サッポロのノンアルは大々的なCMで攻めるタイプではないです。でも10年以上、地道に商品を磨いてきた。北海道工場での品質管理の話とか、聞くと頭が下がります。

業界の人間として言うと、サッポロは「ノンアル業界の良心」みたいな立ち位置です。流行や数字を追わず、麦の味を大切にする。市場全体が「機能性表示」や「微アル」に流れた今でも、ベースの哲学を変えていない。それが信頼につながってると感じてます。

宝ホールディングス|「のんある気分」でチューハイ系ノンアル市場を開拓

5社目はちょっと毛色が違います。宝ホールディングス、つまり宝酒造です。同社は2010年に「のんある気分」シリーズを発売。これは「ノンアルコールビール」ではなく、「ノンアルコールチューハイ」というジャンルを切り拓いた製品です。

ビール大手4社がビールテイストで戦っている中、宝は「チューハイの代替」というブルーオーシャンに目をつけました。レモンサワーテイスト、巨峰、地中海レモンなど、フルーツ系のラインナップで攻めた。これがハマった。

のんある気分が市場に提示したのは、「ノンアル=ビール風」という固定観念を崩したことでした。チューハイ好き、特に女性層がノンアルに参入するきっかけを作った一本です。ノンアルチューハイの市場規模とランキングを見ると、宝のシェアは圧倒的です。

「酒類メーカーがノンアルを作る意義」を体現

宝酒造は焼酎・日本酒・チューハイの大手。お酒を作ってきた会社が、あえてノンアルを真剣にやる。この姿勢が業界に与えたインパクトは大きかったです。「お酒の代わりではなく、新しい選択肢」というメッセージを、酒類メーカーが自ら発信した。

同社はさらに「ノンアルコール焼酎」分野でも先駆的な動きを見せています。ノンアル業界全体が「ビール一辺倒」から「多様なカテゴリ」へと広がる流れを、宝が後押ししたのは間違いないと思ってます。

5社の戦略比較|何を狙い、何を実現したか

ここまで5社を個別に見てきましたが、改めて並べると各社の個性が浮かびます。同じ2009〜2010年に参入しても、選んだ戦略は全く違った。

メーカー戦略軸強み2020年代の方向性
キリン技術革新0.00%初実現、無添加機能性×無添加の二刀流
サントリーマーケティング4つのゼロを定着派生製品で領域拡大
アサヒ味の完成度本格ビール風味微アル「ビアリー」で先頭
サッポロ原料へのこだわり麦芽100%路線本格派の信頼性を維持
カテゴリ拡張チューハイ系の独占多様な酒類のノンアル化

キリンは「技術で勝つ」、サントリーは「マーケで勝つ」、アサヒは「味で勝つ」、サッポロは「素材で勝つ」、宝は「カテゴリで勝つ」。この棲み分けがあったからこそ、日本のノンアル市場はビール大手1社の独占にならず、多様性を保てたんだと思います。

5社が共通して直面した3つの課題

戦略は違えど、5社が共通して向き合った課題もありました。第一に「酒税法との関係」。ノンアルは酒税がかからない分、価格を下げられそうに見えますが、実は研究開発費が重く、ビールと変わらない価格帯になります。なぜノンアルが高いのかという疑問の背景には、この構造があります。

第二に「20歳未満への自主規制」。各社それぞれに販売方針を定めていて、未成年への販売を控える取り組みを続けています。第三に「機能性表示と健康訴求のバランス」。健康に良いと言いすぎると景表法に抵触する。この線引きとの戦いです。

2009年→2025年、市場規模はどう変わったか

数字で振り返ります。2009年のキリンフリー発売前、日本のノンアルコールビール市場は年間で200万ケース前後。それが2010年には600万ケースを超え、2015年には2,000万ケース、2020年には2,500万ケード、2024年には3,000万ケース台に乗りました。

つまり15年で約15倍。これは清涼飲料水カテゴリの中でも極めて高い成長率です。背景には複数の要因があります。飲酒運転厳罰化、メタボ健診、健康志向の高まり、ソバーキュリアスというライフスタイル、女性層の参入、そしてコロナ禍での家飲み需要。

もし5社のうち1社でも欠けていたら、ここまでの成長はなかったと思います。各社が違う角度で市場を耕したからこそ、消費者の選択肢が広がり、「飲まない選択」が当たり前になった。

次の10年で5社はどこへ向かうのか

個人的な予想を書いておきます。今後10年で各社が向かう先は3方向に分かれそうです。「微アル領域の拡大」「機能性表示食品の進化」「クラフトNAとの融合」。

微アルはアサヒとサッポロが先行。機能性はキリンとサントリーが強い。クラフト的なノンアルは、海外のAthletic Brewingなどに対抗する形で大手も参入してくるはず。宝はカテゴリの多様化、おそらく日本酒系ノンアルや梅酒系ノンアルでさらに先行しそうな気がします。

よくある質問

Q1. 日本で初めてのノンアルコールビールはキリンフリーですか?

厳密には違います。日本でノンアルコールビールテイスト飲料が登場したのは1980年代で、サントリーのバービカン(輸入販売)や、各社の試作品が存在していました。ただし「アルコール度数0.00%」を実現した世界初の製品は、2009年のキリンフリーです。今の市場の起点はこの一本だと考えていいです。

Q2. なぜ2009〜2010年に各社が一斉に参入したのですか?

2007年の改正道路交通法による飲酒運転厳罰化が最大のきっかけです。罰金が大幅に上がり、企業も飲酒運転対策を本格化させた。社会が「アルコールに頼らない選択肢」を求め始めたタイミングと、キリンの技術ブレイクスルーが重なって、各社が一斉に動きました。

Q3. 5社の中で味が一番ビールに近いのはどれですか?

これは好みが分かれます。「キレ・のどごし」重視ならアサヒのドライゼロ。「麦の風味」重視ならサッポロのプレミアムアルコールフリー。「無添加でクリーン」ならキリンのグリーンズフリー。「香料の穏やかさ」ならサントリーのオールフリー。我が家では夫婦で派閥が分かれてます。

Q4. 大手5社以外で注目すべき国産メーカーはありますか?

あります。日本ビールの「龍馬1865」はプリン体・添加物ゼロの硬派路線で熱狂的なファンを持っています。オリオンビールはオリオン零ICHIで沖縄発の独自路線を展開。ヤッホーブルーイングなどクラフト系も参入し始めています。大手5社の市場創造の上に、多様なメーカーが乗っている、というのが今の状況です。

Q5. ノンアル業界の今後で一番注目すべきトピックは何ですか?

個人的には「微アル(0.5%前後)市場の動向」だと思ってます。アサヒのビアリーが切り拓いたこの領域に、各社がどう参入するか。ノンアルと微アルの境界線が再定義される過程で、5社の戦略はまた組み変わるはずです。もう一つは「クラフトNA」。海外のAthletic Brewingなどに対抗できる国産クラフトNAが生まれるかどうか、ここに注目してます。

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