先日、近所のクラフトビール専門店で「ノンアル飲み比べセット」を頼んだら、3つのグラスの色がまったく違ってて驚いた。淡い麦わら色、琥珀のような赤茶、ほぼ真っ黒。同じ「ノンアルコールビール」というカテゴリなのに、見た目だけでこんなに違うの?って、隣に座ってた友人と顔を見合わせた。
この色の違い、実はほぼ100%、原料のモルト(麦芽)の焙煎度で決まってます。コーヒー豆を浅煎り・中煎り・深煎りに分けるのと同じ理屈で、麦芽も焙煎の度合いによって色が変わり、それがそのまま飲み物の色に出る。
今日はこの「色の謎」を、業界で20年以上ノンアルを追いかけてきた立場から、できるだけ分かりやすく書いていきます。色を理解すると、ノンアル選びが一気に楽しくなるので、お付き合いください。
ノンアルコールビールの色は「モルトの焙煎度」でほぼ決まる
ビールの色を作っているのは、9割以上がモルト(大麦麦芽)です。残りの1割は副原料や製法による微調整。だから「色を見ればモルトの種類が想像できる」というのはノンアルでも基本的に当てはまる。
モルトは、収穫した大麦を水に浸けて発芽させ、その後乾燥・焙煎して作られます。この「焙煎」の温度と時間で、麦の中の糖分とアミノ酸が反応し、メイラード反応とカラメル化が進む。要するに、肉を焼くと茶色くなって香ばしくなるのと同じ現象が、麦の中で起きてる。
焙煎が浅ければ淡い黄金色、中程度なら琥珀やアンバー、深く焙煎すれば焦げ茶や黒に近づく。この単純な原則を押さえておくと、ラベルを見ただけで味の傾向まで予想できるようになります。
そもそも「モルト」とは何か
モルトは日本語で「麦芽」。大麦を発芽させ、酵素を活性化させた状態のものです。発芽させることで、麦の中のデンプンを糖に変える酵素(アミラーゼ)が生まれる。この糖がのちに発酵の燃料になり、ビールの甘み・コク・色を作る。
ノンアルコールビールでも、麦芽を使うタイプ(発酵抑制法や脱アルコール製法)は、まずこのモルトを仕込むところから始まります。麦芽を使うか使わないかで味と栄養が大きく変わる話は別記事でも書いたので、よかったらそちらも。
色を測る単位「EBC」と「SRM」
業界ではビールの色を数値で表します。ヨーロッパ式が「EBC」、アメリカ式が「SRM」。EBCの数値はSRMのおよそ2倍と覚えておくとざっくり換算できます。
淡いピルスナーがEBC 4〜6、IPAが12〜25、スタウトになると80以上。市販のノンアルでも、メーカーが内部資料で必ずこの色度を管理してます。ラベルに数字が出ることは少ないけど、見た目を言語化する共通言語として知っておくと便利。
焙煎度別・モルトの種類と色の関係
モルトには本当にたくさんの種類があって、ドイツやイギリスの伝統的なものから、クラフトビール用に新しく開発されたものまで、世界で50種類以上が使われてます。ノンアルコールビールで主に登場するのは、そのうちの7〜8種類。
大きく3つのグループに分けると整理しやすい。淡色モルト・中色モルト・濃色モルト。それぞれ焙煎温度と時間が違い、出てくる色も味も別物です。
下の表に、代表的なモルトと色の目安をまとめました。これを頭に入れておくと、ノンアルの原料表示を見たときに「あ、この子は淡い色のはずだ」と予想できるようになります。
| モルト種類 | 焙煎温度の目安 | EBC色度 | 見た目の色 | 味の傾向 |
|---|---|---|---|---|
| ピルスナーモルト | 80〜85℃ | 3〜5 | 淡い麦わら色 | すっきり・穀物感 |
| ペールモルト | 95〜105℃ | 5〜8 | 黄金色 | パン・ビスケット |
| ミュンヘンモルト | 110〜120℃ | 15〜25 | 濃い金〜淡い琥珀 | 麦のコク・甘香ばしい |
| カラメルモルト(クリスタル) | 120〜160℃ | 25〜150 | 琥珀〜赤茶 | カラメル・トフィー |
| チョコレートモルト | 200〜220℃ | 500〜1100 | 濃い茶色 | カカオ・コーヒー |
| ローストモルト | 220〜230℃ | 1200〜1600 | 黒に近い焦げ茶 | 焙煎香・苦味 |
淡色モルト(ピルスナー・ペール)
もっとも一般的なモルト。日本の大手メーカーが出してるノンアルの大半は、このグループがベースです。ドライゼロ、オールフリー、グリーンズフリー、すべて淡色モルト中心。色はEBC 4〜8の範囲に収まる。
焙煎温度が低いため、麦の本来の甘みやデンプン感がストレートに出る。一方で香ばしさや深いコクは控えめ。だからこそ食事に合わせやすく、毎日飲んでも飽きにくい。
中色モルト(ミュンヘン・ウィーン)
ドイツのオクトーバーフェスト用ビール「メルツェン」や、ウィンナースタイルラガーで使われるのがこの帯のモルト。色はEBC 15〜30で、淡い琥珀。
ノンアルではヴェリタスブロイやヒューガルデン・ゼロが、このタイプのモルトをブレンドしてる傾向にあります。麦の甘香ばしさが前に出て、食事を選ばない万能タイプ。
濃色モルト(カラメル・チョコレート・ロースト)
120℃を超える焙煎で、糖がカラメル化し、200℃を超えるとほぼコーヒー豆と同じ領域に入る。スタウトやポーターといった黒ビールに使われるモルトで、ノンアル界ではまだ少数派だけど、最近のクラフトノンアルでは増えてきてます。
これらのモルトは少量加えるだけで色が劇的に変わる。たとえばローストモルトを全体の3%入れるだけで、EBCが20→60くらいまで跳ね上がる。だから濃色モルトは「色付け係」としても重宝されてます。
なぜ焙煎すると色がつくのか|メイラード反応とカラメル化
少し化学の話をします。といっても難しくないので構えなくて大丈夫。麦芽を加熱すると、麦の中の糖(還元糖)とアミノ酸が反応して、茶色い物質を作り出す。これがメイラード反応。フランスの医師ルイ・カミーユ・メイラールが20世紀初頭に発見した反応で、肉を焼いたときの焼き色、パンの耳の茶色、ステーキの香ばしさ、すべてこれ。
もう1つの反応がカラメル化。これは糖単独が140℃以上で加熱されたときに起きる反応で、糖が分解されて茶色く粘り気のある物質に変わる。プリンの上のカラメルソースと同じ仕組み。
モルトの焙煎では、この2つの反応が同時に進む。だから、焙煎度が上がるほど色は濃くなり、香ばしさ・カラメル感・コーヒー感が順番に強く出てくる。
色と香りはセットでやってくる
面白いのは、メイラード反応で生まれる物質が、色だけじゃなく香りも同時に作るってこと。100℃前後ではパンのような香り、150℃ではキャラメル、200℃を超えるとコーヒーやチョコレートの香りが立ち上がる。
つまり「色を見れば、だいたいどんな香りがするか分かる」状態が成立する。これがビールが官能評価しやすい飲み物である理由の1つです。
色とビアスタイルの対応表|ノンアルでも使える指標
ビールには「ビアスタイル」という分類があり、それぞれ標準的な色度の範囲が決まってます。ノンアルコールビールも基本的にこの体系にならって作られてるので、知っておくと選び方の精度が一気に上がる。
たとえば「ヴァイツェン風」と書いてあれば淡い濁った金色、「黒ビール風」と書いてあれば真っ黒、と予想がつく。色から逆算してスタイルを選ぶ、というのも乙な楽しみ方です。
- ピルスナー:EBC 4〜10(淡い金色)
- ヘレス・ラガー:EBC 5〜12(黄金色)
- ヴァイツェン:EBC 8〜16(濁った金〜淡い琥珀)
- ペールエール:EBC 10〜25(金〜銅色)
- IPA:EBC 12〜30(銅〜淡い琥珀)
- アンバーエール:EBC 20〜35(琥珀〜赤銅)
- ブラウンエール:EBC 35〜50(濃い茶)
- ポーター:EBC 40〜80(焦げ茶)
- スタウト:EBC 70〜140(ほぼ黒)
市販のノンアルでも、たとえばオールフリーやドライゼロはEBC 6前後のピルスナー寄り、龍馬1865は8〜10あたりのヘレス寄り、ヒューガルデン・ゼロは10前後のヴァイツェン寄り、と整理できます。ヒューガルデン・ゼロのレビューでも書いたけど、白ビール系の濁りはモルトだけじゃなくて小麦麦芽と酵母由来もあるので、色の話はちょっと複雑になります。
ノンアル特有の色の話|製法による違い
ノンアルコールビールには大きく3つの製法があり、それぞれ色の出方が微妙に違います。脱アルコール製法、発酵抑制法、調合製法。同じモルトを使っても、製法によって最終的な色が変わることがある。
これは業界の人でも意外と意識してない部分なので、知っておくと「なぜこのノンアルはこの色なのか」が説明できるようになります。
脱アルコール製法は色が薄くなりがち
真空蒸留や逆浸透膜でアルコールを抜く製法では、加熱や濾過の工程で色素の一部が失われることがある。とくに真空蒸留は、低温とはいえ熱がかかるので、繊細な色素には影響が出やすい。
そのため、もとは琥珀色のビールが、脱アルコール後にやや明るい金色になる、ということもある。3つの脱アルコール製法を比較した記事でも触れたけど、製法ごとに微妙な特性差があります。
発酵抑制法は色を保ちやすい
低温で発酵をほぼ進めずに止める発酵抑制法では、モルトの色素がそのまま残りやすい。だからモルトのキャラクターが色にも味にも素直に出やすい。
ヴェリタスブロイのような発酵抑制系ノンアルが、麦の自然な琥珀感を保てているのは、この製法のおかげとも言えます。
調合製法は色を自由に作れる
麦芽エキスやホップ抽出物を後からブレンドして作る調合製法では、カラメル色素を後足しすることもできる。つまりモルトの焙煎度と最終的な色が一致しない場合がある。
原料表示に「カラメル色素」と書かれていたら、それは色を整えるための後付け。本来のモルト由来の色とは別物だと理解しておくと、表示の読み解きが楽になります。
色と味の相関|淡い色=薄味とは限らない
よくある勘違いに「色が濃いほど味が濃い」というのがあります。これは半分正解で、半分間違い。確かに濃色モルトを多く使えば色も味も濃くなる傾向はあるけど、淡色モルトでも麦芽の総量を多くすれば、色は薄いままコクのあるビールが作れる。
ドイツのケラービール、ボヘミアのピルスナー・ウルケルの初期ロットなど、淡い色なのに飲みごたえがある例はいくつもある。ノンアルでも同じで、色が薄いから物足りない、とは限らない。
色は1つの指標ではあるけど、それだけで味を判断するのは早計。私自身、最初は「色が濃いノンアル=美味しい」と思い込んでた時期があったけど、何百本と飲んでくると、淡くて軽やかなのに後を引くノンアルの良さも分かってきます。
色から想像できる味の傾向(目安)
とはいえ、初めて飲むノンアルを選ぶときの大まかな目安として、色を見る方法は有効です。下記はあくまで傾向ですが、参考にしてみてください。
- 淡い金色:穀物感とすっきり感が中心。食事に合わせやすい
- 濃い金〜琥珀:麦のコクとほのかな甘香ばしさ。単体でも楽しめる
- 琥珀〜赤茶:カラメル・トフィー系の風味。ローストナッツや肉料理と合う
- 濃い茶〜黒:焙煎香・カカオ感。デザートや濃い味の料理と相性◎
市販ノンアルコールビールの色を実物で比較
ここからは実際に市販されているノンアルを、色の濃さ順に並べてみます。あくまで私が複数本を実飲して目視で確認した結果で、ロットや照明によって見え方は変わりますが、おおよその傾向としては参考になるはず。
| 銘柄 | 色の見た目 | EBC推定 | 使用モルトの傾向 |
|---|---|---|---|
| アサヒ ドライゼロ | 淡い麦わら色 | 4〜5 | ピルスナーモルト中心 |
| サントリー オールフリー | 淡い金色 | 5〜6 | ピルスナー+少量ペール |
| キリン グリーンズフリー | 金色 | 6〜7 | ペール+ミュンヘン少量 |
| 龍馬1865 | 濃い金色 | 8〜10 | ペールモルト中心 |
| ヴェリタスブロイ | 淡い琥珀 | 10〜12 | ペール+ミュンヘン |
| ヒューガルデン・ゼロ | 濁った淡い金 | 8〜10 | ペール+小麦麦芽 |
| ブローリープレミアム | 金色 | 6〜8 | ペールモルト |
こうやって並べると、日本の大手はかなり淡色寄りに揃ってることが分かる。これは日本人がピルスナータイプを好む文化に合わせた結果で、悪いことじゃない。一方で、ヨーロッパ系のノンアルは少し色が濃く、麦のキャラクターが前に出る傾向があります。
クラフト系のノンアルになると、IPAスタイルでEBC 15〜25、スタウトスタイルなら80以上のものも出てきます。クラフトノンアルコールビールのおすすめ記事でいくつか紹介してるので、色のバラエティを楽しみたい方はそちらも見てみてください。
色を意識した選び方|シーン別のおすすめ
色の知識を実生活でどう使うか。シーンごとに考えてみます。私自身、毎日のようにノンアルを飲んでて、その日の気分や料理に合わせて色を選んでます。
夏の暑い日・食事中
淡色モルト中心の、EBC 4〜7程度のノンアルが最適。喉ごしが軽く、料理の邪魔をしない。ドライゼロやオールフリーがこの帯。淡い金色をグラスに注ぐと、見た目にも涼しく感じる。
休日の昼下がり・ひとり時間
少しコクのある琥珀色、EBC 10〜20くらいのものを選ぶ。ヴェリタスブロイやヨーロッパ系のミュンヘンスタイル。グラスに琥珀が満ちると、それだけで小さな贅沢になります。
秋冬の夜・濃い味の料理と
濃色モルトを使った、EBC 30以上のノンアル。クラフト系のブラウンエール風や、ノンアルスタウトがこの帯。ビーフシチューやチョコレートとも合う深さがある。
来客時・乾杯シーン
色の違うノンアルを2〜3本用意して、飲み比べセットにすると盛り上がる。「これは焙煎度が浅くて」「こっちはカラメルモルトが入ってて」と説明しながら飲むと、ノンアルが立派なエンタメになります。
原料表示から色を読み解くコツ
ラベルの裏側、原料表示を見ると、ある程度色の傾向が予測できます。すべてのノンアルが詳細を書いてるわけじゃないけど、いくつかキーワードを押さえておくと便利。
- 「麦芽」とだけ書かれている:標準的なピルスナーかペールモルトが中心。淡い色の可能性が高い
- 「焙煎麦芽」「ローストモルト」:濃色モルトが入っている。色は中〜濃色
- 「カラメル色素」:色付けが後から行われている。製法は調合製法の可能性
- 「小麦麦芽」「ウィート」:ヴァイツェンスタイル。濁った淡い色
- 「副原料:コーン・米」:色が薄めになる傾向。日本の大手によくあるパターン
原料表示の読み方は、慣れるとパズルみたいで楽しい。原料表示の読み方ガイドでもっと詳しく書いてるので、興味があれば併せて読んでみてください。
よくある質問
Q1. 黒いノンアルコールビールはなぜ少ないんですか?
需要の問題が大きい。日本でも世界でも、消費されるビールの大半は淡色のラガー系で、黒ビールはニッチな存在。だからメーカーは限られた商品ラインのうちで、まず淡色のノンアルから出すのが定石になってます。ただ最近はクラフトノンアルでスタウトやポータースタイルも増えてきてるので、これから選択肢は広がるはず。
Q2. 色が濃いノンアルはカロリーも高いの?
必ずしも比例しません。カロリーは主に残糖(発酵されずに残った糖分)と麦芽の量で決まるので、色との直接的な相関は弱い。淡い色でも糖質が多いノンアルもあれば、濃い色でも糖質オフのノンアルもある。気にする場合は栄養成分表示を確認するのが確実です。
Q3. 色付けのために添加されているカラメル色素は安全ですか?
食品添加物として認可されているカラメル色素は、通常の摂取量であれば安全とされてます。ただしカラメル色素にはⅠ〜Ⅳのクラスがあり、製法によって性質が違う。気になる方は、カラメル色素を使わずモルトの焙煎度だけで色を出している銘柄を選ぶのも1つの方法です。
Q4. 色が時間とともに変わることはありますか?
あります。光に当たると色素が変化したり、酸化で色が濃くなったりする。だから缶や濃色瓶で売られているノンアルは多い。家で保管するときも、直射日光を避けて冷暗所に置くのが基本。賞味期限内なら色の変化はほぼ気にならないレベルですが、長期間放置すると色が暗く濁ることもあります。
Q5. グラスの種類で色の見え方は変わりますか?
かなり変わります。透明で薄手のグラスだと色がクリアに見え、ジョッキのような厚いグラスだと色が深く見える。プロのテイスティングでは無色透明のチューリップ型グラスを使うのが標準。家で色を楽しみたいなら、ワイングラスでも全然OK。同じノンアルでも、グラスを変えるだけで印象がガラッと変わるので試してみてください。
Q6. 「ホワイトビール」のノンアルが白っぽく濁ってるのはなぜ?
小麦麦芽を多く使うことと、酵母を濾過せず残してることが理由。小麦のタンパク質と酵母が光を散乱させるので、白く濁って見えます。色自体は淡い金色ですが、濁りで白く見えるのが特徴。ヒューガルデン・ゼロが代表例です。


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