ノンアルコールビールの製造工程を完全可視化|麦芽投入から缶詰めまで

ノンアルコールビールの製造工程を示す醸造タンクと麦芽 ノンアル
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ドイツのある醸造所で、巨大なステンレスタンクの前に立ったとき、案内してくれた職人がこう言いました。「ノンアルを作るほうが、普通のビールを作るより難しい」。最初は意味がわかりませんでした。アルコールを抜くだけじゃないの、と。でも工程を一つひとつ追っていくうちに、その言葉の重みが理解できてきたんです。

スーパーで何気なく手に取る350ml缶の中には、麦芽の選定から発酵管理、脱アルコール、ろ過、缶詰めまで、最低でも20以上の工程が詰まっています。しかもアルコールを残さないという制約があるため、香りや味の作り方が普通のビールとはまったく違う。

この記事では、私が実際に醸造所で見てきたこと、各社の技術者から聞いた話、文献で確認した内容をベースに、ノンアルコールビールが缶になるまでの流れを順を追って説明していきます。読み終わる頃には、いつものノンアルが違って見えるはずです。

ノンアルコールビールの製造には大きく2つのルートがある

製造工程の話に入る前に、知っておいてほしい大前提があります。ノンアルコールビールの作り方は、ざっくり言うと「アルコールをそもそも作らない」か「作ったあとに抜く」かの2つに分かれます。この違いで、後の工程がまるっきり変わってくるんです。

前者は調合製法とか発酵抑制製法と呼ばれます。発酵をほとんど起こさず、麦汁に近い状態で味と香りを整えて仕上げる方法。日本の大手メーカー、たとえばアサヒのドライゼロやサントリーのオールフリーがこのタイプです。アルコールが最初から生まれないので、酒税法上もクリアに「ノンアルコール飲料」として扱えます。

後者が脱アルコール製法。普通のビールを一度ちゃんと醸造してから、減圧蒸留や逆浸透膜(RO膜)でアルコールだけを取り除きます。ドイツのクラウスターラーやヴェリタスブロイ、ヒューガルデン・ゼロなど、海外勢に多い。なぜ美味しいと言われるかというと、発酵によって生まれる本物の香味成分が残るからです。脱アルコール製法と調合製法の違いをもっと詳しく知りたい方は別記事にまとめていますので、合わせてどうぞ。

この記事では、両方の工程を行き来しながら説明していきます。「ここから先は脱アル製法だけ」「ここは両方共通」というかたちで分けて読み進めてください。

製法アルコールの扱い代表的な銘柄香味の傾向
調合・発酵抑制製法そもそも作らない/微量で止めるドライゼロ、オールフリー、グリーンズフリー軽快・クセが少ない・コスト効率良し
脱アルコール製法(蒸留)作ってから減圧蒸留で除去クラウスターラー、ビットブルガー・ドライブ本格的・香りがしっかり残る
脱アルコール製法(RO膜)逆浸透膜でアルコールと水を分離ヴェリタスブロイ、一部クラフト系繊細・本物に近い・コスト高

第1工程:原料選定と麦芽の準備

すべては麦芽から始まります。原料は大麦が中心で、銘柄によっては小麦やオーツ麦も混ぜます。ピルスナータイプを狙うならピルスナーモルト、ホワイトビール系なら小麦麦芽、香ばしさが欲しいならミュンヘンモルト、というふうに、目指す味で麦芽の組み合わせを決めるんです。

麦芽はどうやって作られるか

麦芽というのは、大麦を水に浸して発芽させ、適切なタイミングで乾燥させたもの。発芽の過程で、デンプンを糖に変える酵素(アミラーゼ)が大麦の中に作られます。この酵素があるからこそ、後の仕込み工程でデンプンが糖に変換され、ビールらしい甘みやコクが生まれるわけです。

乾燥温度を低めにすればライトな麦芽、高めにすればコクのある麦芽、さらに焙煎すれば黒ビール用のローストモルトになります。ノンアル製造でも、ここの選択肢は普通のビールとまったく同じ。違いが出てくるのは、もっと後の工程からです。

水とホップ、そして副原料

仕込み水は、その土地の硬度や成分が味を左右します。日本のメーカーは軟水寄り、ドイツは中硬水、というように地域性が出る部分。ノンアル製造では水質管理がさらにシビアで、塩素やミネラルバランスを微調整してから仕込みに入ります。

ホップは苦味と香りの両方を担う花。ザーツ、ハラタウ、シトラ、モザイクなど何百種類もあり、銘柄ごとに使い分けます。ノンアルの場合、アルコールが香りを保持する作用が弱いぶん、ホップの投入タイミングや量で香りを保つ工夫が必要になるんです。後でまた出てきます。

第2工程:仕込み(マッシング)で麦汁を作る

麦芽が準備できたら、いよいよ仕込みに入ります。粉砕した麦芽を温水と混ぜ、デンプンを糖に変換する工程です。これをマッシングと呼びます。

温度管理が肝心で、50℃台でタンパク質を分解する休止、60〜65℃で発酵性の糖を作る休止、70℃前後で甘みのある残糖を作る休止、というふうに温度帯ごとに違う反応を引き出します。職人はこの温度プロファイルを銘柄ごとに微調整していて、ここで麦汁のキャラクターがほぼ決まる。

マッシングが終わると、麦汁と麦かす(ペントと呼ぶ)を分離します。ろ過槽で麦かすを濾し、澄んだ甘い液体だけを取り出す。この時点での麦汁は、ジュースみたいな甘さで、ビールの香りはまだしません。ちなみにこの麦かすは産業廃棄物ではなく、家畜の飼料や、最近はクラフトパンやプロテインバーの原料にもアップサイクルされています。醸造残渣のアップサイクルについては別記事で詳しくまとめています

煮沸とホップ投入

分離した麦汁は、煮沸釜で60〜90分ほど沸騰させます。煮沸の目的は、雑菌の殺菌、余分な水分の蒸発による濃縮、そしてホップの成分抽出。沸騰開始直後に投入するホップは苦味を出すため、終了直前に投入するホップは香りを残すため、と役割が違います。

ノンアルコールビール、とくに脱アル製法のものは、ここでのホップ使用量が多めの傾向。なぜなら後の脱アル工程で香り成分が一部飛んでしまうので、その損失を見越して多めに入れておくんです。技術者いわく「香りの貯金」という表現を使っていました。

第3工程:発酵(または発酵抑制)でビールにする

煮沸後の麦汁を冷却し、酵母を投入して発酵タンクへ送り込みます。ここから先で、製法による道の分かれが本格化します。

通常のビール醸造ルート(脱アル製法の前段階)

普通のビールと同じく、酵母が糖を食べてアルコールと炭酸ガスを生み出します。ラガー酵母なら10℃前後で1〜2週間、エール酵母なら20℃前後で数日間。発酵中はタンクの中で激しい泡が立ち、酵母が活発に働いているのが目で見てわかります。

このルートでは、まず通常通り5%前後のアルコールを持つビールを完成させます。香りのコクも、エステル香も、すべて発酵由来で本物。ここまで来てから、次の工程でアルコールだけを抜く、というのが脱アル製法のミソです。

発酵抑制ルート(調合製法)

一方の調合製法では、そもそも酵母を活発に働かせません。低温で酵母の活動を抑える「コールドコンタクト法」や、酵母が糖を分解する前に発酵を止める「短時間接触法」などが使われます。アルコールが0.05%以下、銘柄によってはほぼゼロで止まる。

この方法のメリットは、製造コストが安く、酒税法上もクリアで、安定した品質を出しやすいこと。デメリットは、発酵で生まれる複雑な香りが乏しくなりがちなこと。だからメーカーは香料や酸味料、苦味料を絶妙に配合して、ビールらしさを後から作り込んでいきます。

「調合製法は本物じゃない」と言われることもあるけど、私は使い分けの問題だと思ってます。コスパ重視で毎日飲みたいなら調合、特別な一杯を楽しみたいなら脱アル、という選び方が現実的です。

第4工程:脱アルコール処理(脱アル製法のみ)

ここが脱アル製法のクライマックス。完成したビールから、アルコールだけを取り除く工程です。技術的には大きく2つの方法があります。

減圧蒸留法

真空に近い低圧環境を作り、低温(35〜45℃前後)でアルコールを蒸発させる方法。普通の気圧下だとアルコールの沸点は78℃ですが、減圧すると30℃台で沸騰します。低温で処理することで、熱に弱い香り成分をなるべく壊さずに済むのがポイント。

とはいえ、完璧に香りを保持するのは難しい。蒸発したアルコールと一緒に、揮発性の高い香気成分も飛んでしまうからです。そこで近年は、飛んだ香り成分を別途回収して、後で戻すという「アロマリカバリー」技術も発達しています。

逆浸透膜法(RO膜法)

もう一つが、分子サイズの違いを利用してアルコールと水だけを膜で分離する方法。熱を使わないので、香りの損失が少ない。ただし設備コストが高く、処理時間もかかるので、価格に反映されやすいです。

ドイツのヴェリタスブロイがこの方式の代表格。カルディなどで買えて、「本物と区別がつかない」と評判ですが、その美味しさの裏側には膜分離の繊細な技術があるんです。

脱アル後のビールはアルコール度数0.05%未満まで落ちますが、完全な0.00%ではないケースもあります。日本の表示基準では1%未満ならノンアルコール扱いになりますが、運転前や妊娠中に飲むなら銘柄表示を必ず確認してください。0.00%と0.5%の違いについては詳しく解説した記事があります。

第5工程:調整・ろ過・炭酸ガス注入

脱アル処理または発酵抑制が終わったビール(らしき液体)は、まだ完成品ではありません。ここから味と質感を整える調整工程に入ります。

糖度・酸味・苦味の微調整

アルコールを抜くと、味の輪郭がぼやけることがあります。アルコール自体に甘み感やコク感があるためで、それを補うために糖類(ブドウ糖、麦芽糖、難消化性デキストリンなど)や酸味料、苦味料を微量加えてバランスを取ります。

この段階で、銘柄ごとのキャラクターが最終調整されるんです。「ドライ感を強めにしたい」「フルーティな香りを足したい」「コクを残したい」といった味の方向性を、添加物と原材料の配合で作り込んでいく。レシピは各社の門外不出のノウハウです。

ろ過と炭酸ガス充填

味の調整が終わったら、酵母や濁り成分を取り除くろ過工程へ。珪藻土ろ過や精密フィルターを使い、透明感のある澄んだ液体に仕上げます。無濾過タイプのクラフトノンアルは、この工程を省くか軽くするだけで、香りやコクを残します。

炭酸ガスは、調合製法の場合は人工的に注入することがほとんど。脱アル製法の場合は、発酵で生まれた炭酸を保持しつつ、必要に応じて追加充填する、という二段構えが多いです。炭酸の粒の細かさ、抜けにくさも銘柄ごとに違いが出る部分。

第6工程:缶詰め・瓶詰めと品質検査

仕上げ工程は、缶や瓶への充填、そして出荷前検査です。ここも普通のビールとほぼ同じですが、ノンアル特有の注意点もあります。

充填時の酸素遮断

缶や瓶に充填する瞬間、酸素が中に入ると酸化が進み、香りが劣化します。これは普通のビールでも同じだけど、ノンアルはアルコールによる防腐効果がないぶん、より厳密に酸素遮断が必要。窒素ガスでヘッドスペースを置換しながら充填する技術が使われます。

缶のほうが瓶より光や酸素を通しにくいので、長期保存に向きます。クラフト系で瓶を選ぶ場合は、茶色の遮光瓶が使われるのもそのため。瓶と缶の味の違いについては別記事で検証しているので興味があれば。

殺菌処理

アルコール度数が低いノンアルは、雑菌が繁殖しやすい環境です。だから熱殺菌(パストライザー処理)または無菌充填のどちらかで微生物制御を行います。熱殺菌は60℃前後で20分ほど加熱する方法で、コストが安いが香りが若干変わる。無菌充填はクリーンルームで処理する方法で、香りは保てるが設備コストが高い。

クラフト系の本格派は無菌充填を選び、大量生産品は熱殺菌を選ぶ、という棲み分けが一般的です。値段に1.5〜2倍の差が出る理由の一つはここ。

官能検査と分析検査

出荷前には、訓練を受けたテイスターによる官能検査(味や香りのチェック)と、ガスクロマトグラフィなどによる分析検査(アルコール度数、糖度、苦味価などの数値測定)を行います。アルコール度数の表示は法的にシビアなので、ここで厳密に確認。

0.00%表示の銘柄は、検出限界以下(一般的に0.005%未満)であることを毎ロット確認しています。「0.00%」という数字の裏には、こうした厳密な検査体制があるわけです。

工程全体を俯瞰する:原料投入から缶詰めまでの所要時間

ここまでの工程を時間軸で整理してみます。製法によって所要時間は大きく違います。

工程調合製法の所要時間脱アル製法の所要時間
仕込み・煮沸6〜8時間6〜8時間
発酵(または抑制)1〜3日1〜2週間
脱アルコール処理なし1〜3日
調整・ろ過・熟成3〜7日1〜2週間
充填・検査1日1日
合計約7〜14日約3〜6週間

脱アル製法のほうが圧倒的に時間とコストがかかるのがわかります。これが価格差の正体です。1本120円のノンアルと1本300円のノンアルでは、製造工程の長さがまるで違う。コスパ重視で選びたいなら箱買いガイドも参考にしてみてください。

製造工程を知ると、ノンアル選びの目が変わる

ここまで読んでくれた方は、もう普通の消費者ではありません。スーパーの棚を見たとき、原材料表示やメーカーサイトの製法説明を読めば、その1本がどう作られたかおおよそ想像がつくはずです。

たとえば原材料に「麦芽、ホップ、香料、酸味料、苦味料、甘味料」と並んでいたら調合製法寄り。「麦芽、ホップ」だけで終わっていたら、脱アル製法か無添加製法の可能性が高い。価格、製造地(ドイツやベルギーは脱アル多め)、表示の細かさからも読み取れます。

個人的に思うのは、製法の優劣を語るより、自分のライフスタイルに合う1本を見つけることが大事だってこと。毎日飲むなら調合製法のコスパ良い銘柄、週末のご褒美には脱アル製法の本格派、というふうに使い分けるのが現実的で気持ちいいです。

缶を開けて一口飲むまでの、何週間にも及ぶ工程。職人さんたちの試行錯誤と技術の積み重ね。それを知った上で味わうノンアルは、ちょっと違う風景になるんじゃないかと思ってます。

よくある質問

Q1. ノンアルコールビールは本物のビールから作られているのですか?

製法によります。脱アルコール製法(クラウスターラーやヴェリタスブロイなど)は、いったん通常通り5%前後のビールを醸造してから、減圧蒸留や逆浸透膜でアルコールだけを取り除いて作ります。一方、日本の大手で多い調合製法(ドライゼロ、オールフリーなど)は、そもそも発酵をほとんど起こさず、麦汁の状態から味を組み立てていく方法です。原材料表示や製法説明を見ると、どちらかおおよそ判断できます。

Q2. なぜ脱アルコール製法のほうが値段が高いのですか?

製造工程が長く、設備コストも高いからです。通常のビール醸造を一通り行ってから、さらにアルコール除去工程を加えるため、調合製法に比べて2〜3倍の時間がかかります。とくに逆浸透膜法は専用設備への投資が大きく、処理速度も遅め。完成までに3〜6週間かかることもあり、これが価格に反映されています。ただし発酵由来の本物の香りが残るので、味の本格度では一歩リードします。

Q3. 0.00%表示は本当にアルコールゼロですか?

表示上は0.00%ですが、厳密には検出限界以下(一般的に0.005%未満)という意味です。完全にゼロではないものの、人体への影響はほぼ無視できるレベル。一方、海外製の脱アル製法ノンアルには0.4%や0.5%といった微量のアルコールを含むものもあり、これらは妊娠中や運転前には避けたほうが無難。表示を確認する習慣をつけてください。

Q4. 製造工程で添加物はどれくらい使われていますか?

銘柄によって幅が大きいです。脱アル製法でアロマリカバリーをしっかり行っているものや無添加を謳う銘柄(キリンのグリーンズフリー、ヴェリタスブロイなど)は、麦芽とホップ以外の添加物がほぼゼロ。逆に調合製法の銘柄は、香料、酸味料、苦味料、甘味料、酸化防止剤などを使って味を組み立てているケースが多いです。添加物が気になる方は、原材料表示が短いもの、または「無添加」表記のあるものを選ぶといいでしょう。

Q5. 自宅でノンアルコールビールを作ることはできますか?

厳密には難しいです。日本の酒税法では、自家醸造でアルコール度数1%以上の酒類を作ることは禁止されています。理論上1%未満で発酵を止めれば違法ではないものの、温度管理や酵母コントロールが繊細で、家庭用機材では再現が難しい。市販のノンアルキットを使ってもアルコールが微量出てしまうことがあり、安全に楽しむなら市販品を選ぶのが現実的です。クラフト感を出したいなら、市販のノンアルに自分でハーブやフルーツを加えてアレンジするのが安全で楽しい方法です。

Q6. 製造日から飲み頃までの目安はありますか?

ノンアルコールビールは通常のビールと違い、瓶内・缶内熟成を前提としていません。製造直後から3〜6ヶ月以内が香りのピーク。長期保存すると香りが飛び、酸化臭が出やすくなります。冷暗所での保管が基本で、開封後はその日のうちに飲み切るのがベスト。賞味期限内であれば品質的に安全ですが、フレッシュさを求めるなら製造日が新しいものを選んでください。

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