去年の夏、香港のクラフトビールバーで「アジア・ビアカップ受賞」と書かれたノンアルのIPAを飲んだ。値段は1本60香港ドル、日本円で1200円くらい。正直、値段を見て怯んだ。でも一口飲んで、なんで賞を取ったか分かった。香りが、本物のクラフトIPAと区別がつかなかった。
アジア・ビアカップ(Asia Beer Cup、以下ABC)は、日本の地ビール協会が主催する歴史あるビール品評会。1998年から続いていて、アジア最大級のビールコンペとして知られてます。最近、このABCでノンアルコール部門の存在感がじわじわ大きくなってる。今回は、ABCでノンアルがどう評価されているのか、その傾向を業界の中の人として整理してみます。
欧米のアワード(World Beer AwardsやBrussels Beer Challenge)と比べてアジアならではの審査軸があって、これが日本やアジア市場でノンアルを選ぶときの参考になるはずです。
アジア・ビアカップとは何か、その立ち位置
ABCは日本地ビール協会(JCBA)が主催。BJCP(Beer Judge Certification Program)の認定審査員と、JCBAが認定したシニアジャッジが審査します。年1回開催で、出品銘柄は500〜700銘柄規模。アジア圏のブルワリーが中心で、近年はオーストラリア・ニュージーランド・台湾・韓国・タイからの出品も増えてます。
欧米のアワードとの一番の違いは、審査スタイル。ABCは「BJCPスタイルガイドライン」に忠実で、各ビアスタイルの定義に対してどれだけ完成度が高いかを点数化する。つまり、奇をてらった味より、お手本通りのバランスが評価される傾向があります。
ノンアル部門は「Non-Alcoholic Beer」というカテゴリで独立して設定されていて、最近は「Low Alcohol(微アル)」と分けて審査するように制度が整ってきました。International Beer Cupのノンアル部門の受賞銘柄を網羅した記事と合わせて読むと、日本系の品評会の全体像がつかめます。
他の世界三大アワードとの違い
World Beer Awards、Brussels Beer Challenge、European Beer Starの3つは欧州中心の審査体制。これに対してABCはアジアの食文化に詳しい審査員が多いのが特徴です。例えば、寿司や中華と合わせたときのバランスを評価軸に入れる審査員もいる。これは欧米のアワードでは絶対に出てこない視点です。
世界三大NAビールアワードをまとめた記事を読むと、欧米系との比較がもっと立体的になります。
ABCのノンアル審査軸はここが独特
業界の知人で実際にABCの審査員を務めている方から聞いた話を、差し障りのない範囲でまとめます。ABCのノンアル審査は、ざっくり4つの視点で見られている。
1つ目は「ビアスタイルの再現性」。これはどのアワードでも同じだけど、ABCは特に厳しい。例えばノンアルのピルスナーとして出品するなら、ピルスナーらしい色調・苦味・モルトの香り・キレが揃っているか。「ノンアルだから許容範囲を広げる」みたいな甘えはなくて、レギュラービール同様の水準を求められる。
2つ目は「飲み疲れしないバランス」。アジアの食文化、特に和食・中華・韓国料理は1食の中で複数の料理を少しずつ食べるスタイル。ビールも食中酒として飲む文化が強いので、最後まで飲み飽きないかが見られる。甘味料の人工的な後味や、酵母由来のクセが強すぎると減点されやすいです。
残糖と甘味のバランスがシビア
3つ目は「残糖の処理」。ノンアルビールはアルコールを抜く工程で麦由来の糖が残りやすく、ベタっとした甘さが出る。欧米のアワードだとここはある程度許容されるんですが、ABCは厳しい。アジアの審査員は「料理の邪魔をする甘さ」に敏感です。
4つ目は「炭酸のキレ」。これもアジアならでは。揚げ物や脂っこい中華と合わせたときに口の中をリセットしてくれるか。炭酸が弱くてダレた印象になるノンアルは、たとえ香りが良くても上位に来づらい。
受賞傾向:どんなノンアルが評価されてきたか
近年のABCノンアル部門で金賞・銀賞を取っている銘柄の傾向を、製法別・原産国別にまとめてみました。具体的な銘柄名は公式発表を確認してほしいので避けますが、傾向としては以下の通り。
| カテゴリ | 受賞傾向 | 背景 |
|---|---|---|
| ドイツ系ピルスナー | 金賞常連、最多受賞圏 | 真空蒸留・脱アルコール製法の歴史が長く、技術的に成熟 |
| ベルギー系ホワイト | 銀賞〜金賞 | 香料との相性が良くノンアル化しても個性が残りやすい |
| クラフトIPA系 | 銀賞〜銅賞 | ホップ香で勝負できる一方、苦味のバランスが難所 |
| 日本のスーパードライ系 | 銀賞〜銅賞 | キレと飲みやすさは高評価だが個性面で苦戦 |
| アジアの新興クラフト | 銅賞中心、急成長 | 台湾・韓国のクラフトNAが近年存在感を増す |
圧倒的に強いのはドイツ系。ヴェリタスブロイ、エルディンガー、ビットブルガーといったブランドのノンアル版が、ほぼ毎年メダル圏内にいます。これはドイツのノンアルビール文化を解説した記事でも触れたように、ドイツの法律と技術蓄積が桁違いだから。
日本勢の健闘と課題
日本のアサヒ・キリン・サントリー・サッポロもノンアル部門に出品していて、銀賞や銅賞を獲得しています。ただ、金賞となるとドイツ勢に水をあけられているのが正直なところ。原因は明確で、日本のノンアルは「調合製法」が主流だから。麦芽風味原料・ホップエキス・香料を混ぜて作る方式は、コスト面で優れる一方、ビアスタイルガイドラインに沿った完成度ではどうしても脱アルコール製法に劣ります。
ただこれは日本メーカーが負けてるってことじゃない。ABCは「お手本通り」を評価する場であって、「市場で売れる味」を評価する場じゃない。アサヒ・ドライゼロが日本でNo.1なのは、日本の食卓に合うように設計されているからで、これはABCの審査軸とはちょっとズレるんです。
個人的には、日本のクラフトNAブランドがここ2〜3年でぐっと底上げされてきた印象を持ってます。特に小規模ブルワリーが脱アルコール製法に投資し始めていて、来年以降の金賞争いに食い込んでくる予感がしてる。
アジア市場のノンアル需要とABC評価の連動
ABCの評価は、アジアの消費者がノンアルに何を求めているかを反映してるとも言えます。例えば韓国は、焼酎文化が強い一方でMZ世代の禁酒トレンドが急拡大していて、ノンアルビール市場が前年比150%レベルで伸びている。中国も白酒文化の中でノンアル選択肢への関心が高まっています。
こういうアジア市場の動向については、韓国・中国のノンアル事情をまとめた記事で詳しく書いてるので、合わせて読むと文脈がつかみやすい。
面白いのは、アジアの審査員が「食事と一緒に飲めるノンアル」を高く評価するという軸。これは欧米のアワードが「単体で完成された味」を評価するのと対照的です。だから、ABCで金賞を取ったノンアルは、日本人の食卓にも馴染みやすい可能性が高い。アワード受賞銘柄を選ぶときの大事なヒントになります。
微アルコール(Low Alcohol)枠の動き
2023年あたりから、ABCは「Non-Alcoholic(0.5%未満)」と「Low Alcohol(0.5〜3.5%)」を別枠で審査するようになりました。これはアサヒビアリーやサントリーのビアボールゼロといった微アル製品が増えたことを反映した制度変更です。微アル枠の方が、現状はビアスタイルの再現度で有利。アルコールが少しでもあるとビールらしい厚みが出るからです。
ABC受賞銘柄を実際に選ぶときのポイント
ここからは実用的な話。ABC受賞銘柄を選ぶときに、私が普段やっている考え方を共有します。
まず、金賞・銀賞・銅賞のメダルカラーよりも、「どのカテゴリで受賞したか」を見る。ピルスナー部門金賞とIPA部門銀賞は、味の方向性が全く違う。自分が普段どんなビールが好きかを起点にカテゴリで絞るのが正解です。
次に、受賞年も大事。同じ銘柄でも、メーカーがレシピを改良してるケースがあって、5年前の受賞銘柄と今売られているものは別物だったりする。直近2〜3年の受賞銘柄を選ぶのが無難。
- 同じカテゴリで複数年連続受賞してる銘柄を選ぶ(味の安定性が高い)
- 金賞より「自分の好きなスタイルでの銀賞」を優先する
- ドイツ・ベルギー産は失敗が少ない
- クラフトNAは挑戦的だが当たり外れがある
- 調合製法の日本ブランドは食事との相性で選ぶ
あと、ABC受賞銘柄は基本的に流通量が限られるものが多い。カルディ、成城石井、ジュピターコーヒー、輸入食材を扱う酒販店が狙い目です。アマゾン・楽天でも買えますが、保管状態が読めないので、できれば実店舗で買いたい。カルディで買えるノンアルのガイドも参考に。
ABCがアジアのノンアル市場に与える影響
ABCで賞を取ると、アジア圏の流通網に乗りやすくなる。これは商業的にはとても大きい。特に台湾・香港・シンガポールの輸入業者は、ABC受賞歴を仕入れ判断の指標にしてます。だから、欧米のクラフトNAブランドが「アジア進出のためにABCに出品する」というケースも増えてる。
ここ最近で印象的だったのは、Athletic BrewingやBrewDogといった欧米のクラフトNAリーダーが、アジア市場を意識した出品を始めたこと。彼らは欧米のアワードでは常勝組ですが、ABCの審査軸(食中酒としてのバランス)に合わせてアジア向けの限定レシピを試している節があります。
これは消費者にとってもいいニュース。アジアの食事に合うノンアルが、もっと選びやすくなるってことです。
ABC受賞がメーカーに与える具体的効果
受賞メーカーに話を聞くと、金賞を取った後の3ヶ月で売上が2〜3倍に跳ねるケースがある。特に業務用市場(ホテル・レストラン)でアワード受賞は強い説得材料になる。ノンアル選定で迷っている飲食店オーナーが、「ABC金賞」というラベルで決断するんです。
これは消費者の私たちにも参考になる。実際、ホテルバーやファインダイニングのノンアルメニューには、ABCやWorld Beer Awards受賞銘柄が選ばれていることが多いです。
これからのABCノンアル部門に期待すること
個人的にABCのノンアル部門に期待しているのは、3つ。
1つ目はカテゴリのさらなる細分化。今はノンアルピルスナー・IPA・スタウト・ホワイトくらいですが、アジアの食文化に合わせて「アジアン・ライスラガー」みたいな独自カテゴリができたら面白い。米を副原料に使うアジアのビール文化を反映できる。
2つ目はペアリング部門の新設。料理と一緒に審査する形式があれば、アジアの食文化を生かしたユニークなアワードになる。これは欧米のアワードにはない強み。
3つ目は消費者向けの情報公開。今のABCは業界向けの色が強くて、一般消費者が受賞銘柄リストにアクセスしにくい。もっとSNSや消費者向けメディアで発信が増えれば、日本のノンアル市場全体が活性化すると思ってます。
ABCはアジアのノンアル市場の品質を底上げする役割を担ってる。これからのアジア市場の成長を考えると、もっと重要性が増していくはずです。
よくある質問
Q1. アジア・ビアカップ(ABC)とインターナショナル・ビアカップ(IBC)は何が違うんですか?
どちらも日本地ビール協会(JCBA)が主催する品評会ですが、ABCはアジア圏のブルワリーを中心とした参加者層、IBCは国際的な参加者層という違いがあります。審査基準(BJCPスタイルガイドライン準拠)は共通ですが、出品傾向と注目される味の方向性が少し異なります。ABCはアジアの食文化を意識した審査員構成、IBCはより国際標準寄りのバランスを評価する傾向です。
Q2. ABCで金賞を取ったノンアルビールはどこで買えますか?
輸入銘柄が多いので、カルディ、成城石井、ジュピターコーヒー、ノンアル専門ECサイトが狙い目です。国内大手メーカーの受賞銘柄であれば、スーパーやコンビニでも手に入る場合があります。ABCの公式発表ページで受賞銘柄を確認した後、銘柄名で検索すると入手経路が見つかりやすいです。
Q3. ABC受賞銘柄は普通のノンアルビールと値段がどれくらい違いますか?
一般的な国産ノンアルが1本120〜180円なのに対し、ABC受賞の輸入銘柄は1本300〜500円が相場。クラフトNAの受賞銘柄になると1本600〜900円のものもあります。脱アルコール製法のコストと輸送コストが上乗せされるためです。ただし味の完成度を考えると、特別な日や食事を楽しむ場面では十分価値があると思います。
Q4. ABCのノンアル部門で日本メーカーが金賞を取ったことはありますか?
はい、あります。大手メーカーの主要銘柄が金賞・銀賞を獲得した実績がある年もあります。ただ全体傾向としては、脱アルコール製法を採用するドイツ系・ベルギー系の方が金賞獲得率は高めです。日本メーカーは銀賞・銅賞に多く、特に「飲みやすさ」「食事との相性」のカテゴリで評価される傾向があります。
Q5. ABC受賞ノンアルとWorld Beer Awards受賞ノンアル、どっちが信頼できますか?
どちらも信頼できる権威ある品評会です。違いは評価軸。World Beer Awardsは欧米の食文化と単体での完成度を重視、ABCはアジアの食文化と食中酒としての完成度を重視。和食や中華と合わせるなら、ABC受賞銘柄の方が日本人の口に合いやすい可能性が高いです。逆に単体でじっくり味わうなら、World Beer Awards受賞銘柄も素晴らしい選択肢になります。
Q6. ABCに出品されるノンアルの数はどれくらいですか?
近年、ノンアル部門と微アル部門を合わせて30〜50銘柄程度が出品されています。5年前と比べて出品数は約3倍に増えていて、アジアのノンアル市場拡大を反映した動きです。今後さらに増えると予想されています。

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