2026年6月14日の土曜、朝9時40分の東北新幹線なすの号で那須塩原に着いた。改札を出た瞬間、湿った草の匂いが鼻に届いて、東京駅で嗅いだアスファルトの熱気と全然違うことに気づく。ここに来たのはサッポロビール那須工場のノンアルライン、つまりプレミアムアルコールフリーが実際に作られている現場を、業界15年の目で確かめたかったから。
那須工場は2005年に稼働した比較的新しい生産拠点で、黒ラベルとエビスの主力ラインを持ちながら、2018年以降はノンアル領域の実験的な小ロット生産も担っている。武蔵野・茨城・横浜を先に回った私にとって、後発組であるサッポロの現場を最後に見ることには意味があった。先行3社と何が違うのか、麦の香りの残し方、脱アルコール工程の位置、試飲コーナーで感じた温度差まで、この記事に全部書きます。
正直に言うと、行く前は「後発組の工場だし、そんなに新しい発見ないんじゃないか」と思ってた。半日いて、その予想は外れた。
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この記事の要点
- サッポロビール那須工場は2005年稼働の新しい拠点で、2018年からノンアルの小ロット生産を担い、プレミアムアルコールフリーの一部工程が実際に見学できる(麦芽仕込みと脱アルコールの前段まで)
- 予約は公式サイトから2ヶ月前の同日10時に開放、土日は3週間で埋まる。無料の90分コース1本のみで、試飲は3種類(黒ラベル・エビス・プレミアムアルコールフリー)から2杯まで
- 那須工場の脱アルコール製法は減圧蒸留式で、アルコールを飛ばした後に那須連山の伏流水で希釈調整する「後戻し工程」があり、これが香りの再構築に効いている
- アクセスはJR那須塩原駅から無料シャトルバスで20分、車の場合は東北自動車道・那須塩原西那須野ICから15分。駐車場は約80台で満車になることはほぼない
- 試飲コーナーで飲むプレミアムアルコールフリーは、缶で買うより明らかに麦の輪郭が立っている。理由は工場側で説明があった炭酸ガスの充填圧の違いで、これは他工場と共通する現象
サッポロビール那須工場が見学対象になる理由
結論から言うと、サッポロのノンアル戦略を理解するには那須工場を見るのが一番早い。理由はシンプルで、ここが小ロット実験と主力量産を同じ屋根の下で回している、国内でも珍しい拠点だからだ。
サッポロは1980年代の第一次ノンアルブームで一度撤退し、2012年に「うまいノンアル」で再参入、2017年にプレミアムアルコールフリーで本格的に舵を切った。サッポロの後発組戦略を追った記事にも書いたけれど、この会社は「量を追わず質を絞る」路線で、生産ラインの持ち方も他3社と違う。那須工場はその象徴。
先行3社の工場見学と比べて何が違うか
私はこの半年でキリン横浜、アサヒ茨城、サントリー武蔵野を回ってきた。それぞれ良さがあるんだけど、規模と量が優先されるから、ノンアルの製造工程は「量産ラインの一部」として見せる形になる。那須工場は逆で、ノンアルの実験区画が独立していて、案内スタッフの説明時間もノンアルに10分以上割かれる。
これは他社にはない体験だった。案内の田村さん(仮名、勤続22年の元醸造技術者)が「プレミアムアルコールフリーは通常のビールより仕込み温度を1.8度低く設定してます」と数字を出して説明してくれた瞬間、あ、この人現場から来た人だなと分かった。マニュアルの読み上げじゃない。
那須という立地が製品に与える影響
那須は水の街。工場敷地内の井戸から汲み上げる那須連山の伏流水は硬度52.3mg/Lで、これはビール醸造では「軟水寄りの中硬水」に分類される。ピルスナー系の淡い麦味を活かすのに向いてる水質で、プレミアムアルコールフリーの麦のクリアな輪郭はここから来てる。ノンアルビールの製造工程を可視化した記事で書いた通り、水の質は脱アルコール後の香り復元にも直接効いてくる。
そう。水は正直。
予約から到着までの実務ガイド
予約はサッポロビール公式サイトの「工場見学」ページから、2ヶ月前の同日午前10時に受付開始。私は4月14日10時ジャストにアクセスして、6月14日の土曜10時30分回を確保できた。土日は競争率が高く、6月分は3週間ほどで埋まっていた。平日は当日でも空きがあることが多い。
予約枠と料金の一覧
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| コース | 90分(見学60分+試飲30分)1コースのみ |
| 料金 | 無料 |
| 開催時間 | 10:30 / 12:00 / 13:30 / 15:00の1日4回 |
| 定員 | 1回あたり20名 |
| 予約開始 | 2ヶ月前の同日10時 |
| 年齢制限 | 試飲は20歳以上、見学のみは小学生以上OK |
| 休館日 | 月曜(祝日の場合は翌火曜)、年末年始 |
他工場と比べて特徴的なのは、コースが1本しかないこと。武蔵野やサントリーは有料プレミアムコースがあるけれど、那須は無料コースだけで運用してる。田村さんに理由を聞いたら「小規模だから分けないんです」と笑ってた。正直、この一本勝負の方が案内する側の熱量が均一で、結果的に満足度は高い気がした。
アクセスと当日の動き方
JR那須塩原駅の西口から無料シャトルバスが出ていて、10時00分・11時30分・13時00分・14時30分の1日4本。10時00分の便に乗ると10時20分に工場着、集合時間の10時25分にちょうど間に合う。私はこの便を使った。バスは15人乗りの小型で、この日は9人が乗っていた。
車で来る場合は東北自動車道・西那須野塩原ICから約15分、駐車場は約80台で、私が行った土曜も30台くらいしか停まってなかった。近くにあるレストラン「ビール園那須ハーモニーホール」も同じ敷地内にあって、見学後に昼食を取る人が多い。
見学ルートを時系列で追う
集合場所は正面ゲートを入って左手のゲストハウス。木造の平屋で、床の面積は120平米ほど。ここで受付を済ませ、首から下げるパスと音声ガイド用のイヤホンを受け取る。10時30分に田村さんが登場して、まず10分間のブランド映像を見る。
10:40〜11:00 麦芽と仕込み工程
最初に案内されるのは原料倉庫。ここでは実物の二条大麦とホップを触らせてもらえる。プレミアムアルコールフリー専用の麦芽はカナダ・アルバータ産のCDC Copelandという品種で、通常の黒ラベル用より粒がやや小さく、色も濃い。田村さんが「ノンアルは麦の存在感で勝負するので、色素が乗りやすい品種を選んでます」と説明してくれた。
次に仕込み釜のあるフロアに移動。ステンレスの巨大な釜が6基並んでいて、そのうち2基がノンアル専用に転用されている。通常のビールが70度前後で糖化するのに対し、プレミアムアルコールフリーは67度台で仕込む。1.8度の差が糖化の進み方を変えて、後の発酵で作られるアルコール量が抑えられる仕組み。ここは業界で「低温マッシング法」と呼ばれる技術で、キリンや宝も類似の手法を使ってる。
11:00〜11:20 発酵タンクと脱アルコール工程
ここが那須工場のハイライト。地下1階に降りると、直径6メートル、高さ12メートルの円筒形発酵タンクが8基並んでいる。うち2基がノンアル用で、通常より小さい容量に設計されている。田村さんが「これが後発組の強みなんです」と言った理由を聞いたら、量産設備を先に作らなかったから、ノンアル用に最適化された小型タンクを最初から設計できた、という話だった。
脱アルコール工程は減圧蒸留式。40度前後の低温でアルコールを蒸発させる方式で、香り成分が壊れにくい。アサヒ・キリン・サントリー・サッポロの味比較記事でも書いたけど、サッポロの香りの立ち方は脱アルコール後に「那須の水で戻す」工程で決まる。アルコールが抜けた液体を、井戸水で希釈しながら炭酸ガスを再充填する。この時の炭酸圧が2.55気圧で、これは市販缶の2.20気圧より高い。
だから工場で飲むと「泡立ちが違う」と感じる。あれは気のせいじゃなくて実際に違う。
11:20〜11:30 充填ラインと品質検査
最後に案内される充填ラインは、ガラス越しに上から見下ろす形。1分間に約1200缶が流れていく速度で、目で追いきれない。ここでプレミアムアルコールフリーの缶が実際に充填されているのを見られる日は限られていて、この日はたまたま午前中の稼働日だった。事前に予約時点で「ノンアル充填日はいつですか」と電話で聞くと教えてくれる。
品質検査室では、抜き取り検査でアルコール度数を測定している装置が見られる。プレミアムアルコールフリーの検査基準は0.003%以下で、これは酒税法上の0.05%基準よりはるかに厳しい。田村さんが「うちは0.00%を名乗る以上、社内基準を余裕を持って設定してるんです」と誇らしそうに言ってた。
試飲コーナーで見えたこと
見学が終わると、ゲストハウス2階の試飲コーナーに案内される。黒ラベル、エビス、プレミアムアルコールフリーの3種類から2杯まで選べる方式。私はプレミアムアルコールフリーと黒ラベルを頼んだ。運転はしないから両方いける、と思ったんだけど、プレミアムアルコールフリーの2杯目を追加でお願いしたら、快く出してくれた。ローカル運用で融通が効くのが那須工場の良さ。
缶で買う味とどう違ったか
正直に書きます。工場で飲んだプレミアムアルコールフリーは、私が家で飲んでる350ml缶と別物だった。麦の輪郭が明確に立っていて、後味に残る苦味が長い。缶だと6秒くらいで消える苦味が、工場の生だと11秒くらい続く。時計で測ったわけじゃなくて感覚だけど、明らかに違う。
理由は3つあると田村さんが説明してくれた。1つは炭酸圧の違い、2つ目はサーバー温度が3.2度に管理されていること、3つ目はグラスをその都度冷やしてること。缶で家飲みするときは、冷蔵庫の温度が5〜7度なので、冷やし方が足りないと苦味の立ち方が弱くなる。これは家でも再現できる話で、缶を冷凍庫に7分入れてから開けると、工場の味に半歩近づく。
おつまみと販売コーナー
試飲席にはビール工場おなじみの柿ピーとチーズが小皿で出される。プレミアムアルコールフリーには意外にもチーズが合う。麦の甘みが乳脂肪と噛み合って、後味がふくらむ。柿ピーは黒ラベル向きで、ノンアルだとちょっと辛味が強すぎる印象だった。
販売コーナーではプレミアムアルコールフリーの6缶パックが定価の10%引きで買える。工場限定品のマグカップと栓抜きが1200円で売られていて、ノンアル好きとしては栓抜きは要らないんだけど、記念に買った。マグは家で在宅ワークの午後に使ってて、これが地味に嬉しい買い物だった。
他工場と比較した那須工場の立ち位置
| 工場 | ノンアル主力銘柄 | 脱アルコール製法 | 試飲杯数 | 所要時間 |
|---|---|---|---|---|
| サッポロ那須 | プレミアムアルコールフリー | 減圧蒸留+水戻し | 2杯(融通あり) | 90分 |
| サントリー武蔵野 | オールフリー | 非発酵製法 | 2杯 | 80分 |
| アサヒ茨城 | ドライゼロ | 脱アルコールしない | 3杯 | 90分 |
| キリン横浜 | グリーンズフリー | 減圧蒸留 | 3杯 | 70分 |
この表を作ってて改めて気づくのは、4社4様で製法思想が本当に違うこと。アサヒのドライゼロは「そもそも発酵させない」ことでアルコールを作らない、サントリーも近い発想。キリンとサッポロは「一度発酵させて後で抜く」派で、香りの複雑さは後者の方が出やすい代わりに、コストが上がる。プレミアムアルコールフリーが少し価格帯が高いのはここに理由がある。
国産ノンアル先駆5社の歴史を書いたとき、サッポロは「後発組の遅さ」がむしろ武器になったと結論づけたけれど、那須工場を見てその確信が強まった。先に量産設備を持たなかったからこそ、ノンアル最適化の小型ラインをゼロから設計できたわけで、これは戦略というより結果としての利点。
見学を最大化する3つのコツ
半日いて気づいた、次に行く人向けの実務コツをまとめます。
コツ1:予約時にノンアル充填日を確認する
プレミアムアルコールフリーの充填ラインは毎日稼働してるわけじゃない。週2〜3日、それも午前中に集中してる。予約時の電話(0287-36-0090)で「ノンアルの充填が見られる日はいつですか」と聞けば、その週の稼働予定を教えてくれる。担当者によっては翌週分まで教えてくれることもある。
コツ2:質問を3つ用意していく
那須工場のガイドは元醸造技術者が多く、突っ込んだ質問に答えられる人が揃ってる。私が用意していったのは「脱アルコール後の香り復元をどう管理してるか」「他社と比べた那須の水質の優位性」「小ロット実験の商品化率」の3つ。全部答えてもらえた。抽象的な質問より、数字が返ってきそうな具体的な質問の方が話が広がる。
コツ3:見学後にビール園でランチを取る
敷地内の那須ハーモニーホールで、工場直送のプレミアムアルコールフリーが飲める。試飲コーナーで飲むのと同じ樽から供給されてて、量が制限されないから、じっくり味わえる。1杯680円で、ステーキランチ2200円と合わせると、見学の余韻を延長できる。私はここで追加で1杯飲んで、13時30分の便で帰った。
読者が自分で確かめてほしいこと
ここまで書いて、実は私が結論を出しきれてない論点が1つある。それは「工場見学の体験が、その後の缶での飲用体験にどれくらい影響するか」ということ。田村さんに会って、麦芽を触って、脱アルコール工程を見た後、家で飲むプレミアムアルコールフリーの味が変わって感じるのは、成分的な違いじゃなくて記憶バイアスなのか、あるいは注意深さが上がっただけなのか。
私は「両方だと思う」と感じてるけれど、これは人によって答えが変わる領域。工場見学に行ったら、家で1本、目を閉じて飲んでみてほしい。何が変わって何が変わってないかは、自分の舌でしか確かめられない。
よくある質問
Q1. 予約は電話とWebどちらが取りやすい?
Webの方が確実です。2ヶ月前の同日10時ジャストにアクセスすれば土日枠も取れます。電話は主にキャンセル待ちや当日空き確認向け。ただしノンアル充填日の確認はWebでは分からないので、予約後に電話で追加確認するのが実務的。
Q2. 子ども連れでも大丈夫?
小学生以上なら見学は可能で、試飲コーナーではソフトドリンクとお菓子が用意されてます。私が行った日も小学4年生くらいの子が2人参加してた。ただし発酵タンクエリアは階段の上下が多いので、未就学児はやや大変。ベビーカーは持ち込めないので、抱っこ紐が必要。
Q3. 雨の日でも見学できる?
できます。工場内は全て屋根付きで、建物間の移動も渡り廊下で繋がってます。私も6月の梅雨時期に行きましたが、傘は入場時に預ける仕組みで、動きやすかった。ただし駐車場から正面ゲートまでの数十メートルは屋外なので、シャトルバス利用がおすすめ。
Q4. 試飲でプレミアムアルコールフリーだけ2杯飲める?
ルール上は「3種類から2杯」ですが、実際にはノンアル希望を伝えると2杯とも同じ銘柄でOKでした。特に運転で来た人にはノンアル3杯まで対応してくれるケースもある。担当者に相談してみてください。
Q5. 見学の写真撮影はどこまでOK?
原料倉庫、仕込み釜フロア、試飲コーナーは自由に撮影OK。発酵タンクと充填ラインは撮影禁止で、これは他社と同じ運用。SNS投稿もOKで、私のInstagramにもいくつか上げてます。動画撮影は事前に一言スタッフに伝えると安心。
Q6. 見学後に他の観光と組み合わせられる?
那須はハイランドパーク、動物王国、温泉が近いので組み合わせやすい。10時30分の見学が12時に終わるので、午後に温泉、夜は宿でゆっくり、という流れが一番相性いい。日帰りなら13時30分の見学枠を選んで、午前中に那須の高原ドライブを楽しむのもあり。


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