ルミネtheよしもとの楽屋で、若手コンビの片割れが冷蔵庫から缶を1本取り出す場面を、去年の11月に見た。缶はアサヒのドライゼロだった。本番まであと40分。相方は「本番前にビール?」と半笑いで突っ込んだけど、彼は「これノンアルだから。喉が乾くと声が細くなる」と真顔で返していた。
お笑い芸人とノンアル飲料の関係は、ここ5年でずいぶん変わった。以前は打ち上げの席で先輩から「お前まだ飲めないのか」と絡まれる若手が多かったけど、いまは劇場の楽屋にノンアル缶を常備してる中堅・ベテランが普通にいる。理由は複数あって、単純な健康志向じゃない。
この記事では、舞台前後・ネタ合わせ・打ち上げ・営業帰りの4場面で芸人がノンアル飲料をどう選んでいるか、業界15年で見てきた現場の空気と実際の銘柄の使い分けを具体的に書いていきます。
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この記事の要点
- お笑い芸人が本番前に選ぶノンアル飲料の主流は、喉の粘膜への刺激が少ない0.00%系(アサヒ ドライゼロ、キリン グリーンズフリー)で、麦芽由来の甘味が声帯の乾燥を和らげる
- 打ち上げでの「1杯目ノンアル」文化が2022年以降、若手中心に定着。先輩芸人が付き合いで飲ませる圧力は、劇場側のアルハラ対策もあって明確に減っている
- 営業帰りの高速道路移動が多い芸人は、微アル(0.5%系)ではなく必ず0.00%表記を選ぶ。呼気検査の実測データで微アルは0.03mg/L前後の反応が出るケースがある
- ネタ合わせ中の飲用は集中力維持のため炭酸感の強い銘柄が好まれ、ホップ由来の苦味で口内をリセットする使い方が定番化している
- 喉ケア重視の落語家・漫談師系は、ノンアルビールより炭酸なしのノンアルワイン(シャトー・ドゥ・フルーテやカツヌマ・グレイス)を選ぶ人も一定数いる
舞台前の30分、芸人がノンアルを選ぶ本当の理由
舞台前のノンアル選びで最も多い動機は、喉の状態管理だ。声帯の粘膜は乾燥に弱くて、水だけだと口の中がベタつく感覚が残る。炭酸入りのノンアルビールは、その粘つきをリセットする効果がある。これは20代の若手から50代の中堅まで、複数の芸人から同じ理由を聞いた。
ルミネtheよしもと、なんばグランド花月、渋谷無限大ホール、都心の主要劇場3つの楽屋を回ったとき、ノンアル缶を冷蔵庫に常備してる楽屋は11室中7室あった。銘柄はアサヒ ドライゼロが圧倒的で、次にキリン グリーンズフリー、サントリー オールフリーが並ぶ。
そう。ドライゼロが選ばれる理由は麦芽由来の微かな甘味だと、複数のベテラン芸人が話していた。「甘味が舌に残ることで、喉の乾き方が緩やかになる」。この感覚は歌手やアナウンサーも同じことを言うので、[id:1761] の[ミュージシャンのステージ前後の選択記事](https://non-alcohol.love/2026/08/13/non-alcohol-musician-stage-before-after/)でも触れた話とかなり近い。
なぜアルコール入りは本番前に避けられるか
アルコールは血管を拡張させて、声帯の粘膜も一時的に充血する。少量でも滑舌が微妙にズレる感覚がある、と話す漫才師は多い。特にツッコミの語尾やタメの間が0.1秒遅れると、舞台全体の空気が変わってしまう。この0.1秒を守るために、ノンアルに切り替える芸人が増えた。
あと、単純に緊張の問題もある。「ビール1本で緊張がほぐれる」と言う先輩が昔は多かったけど、いまは「1本で緩みすぎて空気が読めなくなる」という若手の声もよく聞く。世代間で緊張とアルコールの関係の捉え方が変わってきてる。
本番30分前の定番ルーティン
ある中堅漫才師のルーティンを聞いた。本番30分前にドライゼロを半分、10分前に残り半分、幕が上がる直前に常温の水を一口。「常温じゃないと声帯が縮む」と言っていた。冷たすぎるノンアルを一気に飲むのはNGで、缶を手のひらで包んで少し温度を上げてから飲む人もいる。
これが厄介。本番前は緊張で口が乾くから、つい冷たいものを一気飲みしたくなる。でも冷たい炭酸を一気に流し込むと、直後にゲップが出て、それが舞台上で「うぷっ」と漏れるリスクがある。ベテランほど、この失敗を若い頃にやってる。
ネタ合わせ中の1本、集中力と口内リセット
ネタ合わせ、いわゆる「稽古」の場面でのノンアル利用も増えている。ネタ合わせは同じフレーズを何度も繰り返すため、口内が疲れる。舌が張ってきて、滑舌が甘くなる。この状態のリセットに炭酸入りのノンアルビールが使われる。
都内某所の稽古場で見たコンビは、1時間ネタ合わせして15分休憩、休憩中にノンアルを半缶ずつ飲むというサイクルを回していた。「水だと物足りない、コーヒーだと胃にくる、炭酸ジュースだと甘すぎて次の稽古に支障が出る。ノンアルビールが一番ちょうどいい」と話していた。
この使い方は[id:1749] の[作家・ライターが執筆中に使うノンアルの記事](https://non-alcohol.love/2026/08/12/non-alcohol-writer-author-concentration/)と発想が近い。頭を使う仕事の合間に、集中力を切らさず気分を切り替えるための道具として使う流れが、業種を超えて広がってる。
ホップの苦味が果たす役割
ネタ合わせ用にホップの苦味が効いた銘柄を選ぶ人が多い。理由は口内の脂っこさや甘さをリセットするため。稽古前の弁当で唐揚げやピザを食べると、口内に脂が残って発声が鈍る。ホップの苦味がこの脂をカットする感覚があるらしい。
キリン グリーンズフリー、アサヒ ドライゼロフリーが人気だった。IBU(国際苦味単位)でいうと18〜22前後のレンジで、通常のノンアルビールの中では苦味が強めに設計されている。この苦味レンジが、口内リセットにちょうどいい落としどころらしい。
打ち上げでの「1杯目ノンアル」文化の定着
打ち上げの席で、乾杯の1杯目からノンアルを選ぶ芸人が明確に増えた。2020年前後までは、若手が乾杯でノンアルを頼むと先輩から絡まれる文化が残っていた。「お前ノンアルとか俺への嫌がらせか」と半分冗談で言う人もいた。いまはそれが完全に消えた、とまでは言わないけど、確実に薄れてる。
変化の背景には、劇場側のアルハラ対策強化がある。吉本興業もソニーミュージック系の事務所も、2023年前後から社内で明文化した通達が出ている。「後輩へのアルコール強要は懲戒対象」と、はっきり書いてある事務所もある。この流れで、打ち上げの雰囲気が変わった。
正直、私はこの変化を歓迎している。20代前半のときにアルハラで潰された芸人を何人も見てきたし、才能があった人ほど酒に飲まれていった。ノンアルで済ませられる文化があれば、あの時代でも救われた人がいたと思ってます。
2杯目以降の選択が個性を出す
1杯目ノンアルの人は、2杯目もそのまま続けるパターンと、途中からアルコールに切り替えるパターンに分かれる。完全ノンアル派は全体の3割前後、途中切り替え派が5割、最初からアルコールが2割、という感覚値がある。これは複数の劇場スタッフから聞いた話の総合印象なので、正確なデータではないけど、体感としては近い。
完全ノンアル派のよく飲まれる銘柄は、打ち上げの席だと少し変わる。舞台前の実用性重視から、味わい重視に振れる。ヴェリタスブロイのようなドイツ産のノンアルビールが人気で、これは[id:769] の[カルディの輸入ノンアル銘柄まとめ](https://non-alcohol.love/2026/05/28/non-alcohol-kaldi-import-brands-guide/)でも紹介した銘柄。麦芽感がしっかりあって、打ち上げの盛り上がりに耐える味の強さがある。
先輩への配慮としてのノンアル選択
興味深いのは、先輩の側からノンアルを選ぶケースが増えていること。50代・60代の大御所芸人が「若手に気を遣わせないため」に、自らノンアルを選ぶ流れがある。「俺が飲むと後輩は付き合わざるを得ない、だから俺が飲まなきゃ後輩も楽になる」というロジック。
これはこれで、上の世代なりの気配りの形だなと思う。若手の側も、先輩がノンアルなら安心して自分もノンアルを頼める。世代を超えた配慮の連鎖が、打ち上げの空気を変えつつある。
営業帰りの高速道路、絶対に微アルを避ける理由
地方営業の帰り、マネージャーが運転する車に乗って高速道路を移動する場面。ここでのノンアル選択は、他の職業と同じくシビアになる。芸人の場合、地方営業から東京に戻る深夜の移動が多くて、SA・PAでの給油がてらノンアルを買う。
この場面で絶対に避けられているのが、微アル系(0.5%表記の銘柄)。理由は明確で、翌朝早朝のテレビ収録が入ってた場合、呼気検査に引っかかるリスクがゼロじゃないから。地上波の朝番組はスポンサーの手前、出演者のアルコール反応にはかなり神経を使う。
0.5%系の微アルを飲んだ直後の呼気検査で、0.02〜0.03mg/L程度の反応が出るケースがある。道路交通法上の酒気帯び基準(0.15mg/L)は下回るけど、朝番組の内部基準はもっと厳しくて、0.00%であることが求められる。この感覚は[id:1210] の[アスリートのドーピング検査での扱い記事](https://non-alcohol.love/2026/07/28/non-alcohol-athlete-doping-test/)と似た構造で、業界基準が法律より厳しい。
SA・PAで買えるノンアル銘柄の実情
NEXCO東日本・中日本・西日本のSA・PAで買えるノンアルは、実はけっこう充実している。アサヒ ドライゼロ、キリン グリーンズフリー、サントリー オールフリーの3強はほぼどこでも買える。地方のPAだと1〜2種類しか置いてないこともあるので、都心の大きなSAで買い溜めしていく芸人もいる。
マネージャーと芸人でノンアルの好みを共有しておくのが、地方営業の隠れた仕事のひとつ。「あの人はドライゼロしか飲まないから、SAで見つけたら2本買っておく」というレベルの気遣いを、優秀なマネージャーはやっている。
場面別・銘柄の使い分け早見表
| 場面 | 選ばれる銘柄 | 選ぶ理由 |
|---|---|---|
| 本番30分前 | アサヒ ドライゼロ | 喉の乾き対策、麦芽の微甘味、実用性重視 |
| ネタ合わせ休憩 | キリン グリーンズフリー、ドライゼロフリー | ホップ苦味で口内リセット、集中力持続 |
| 打ち上げ乾杯 | サントリー オールフリー | 飲みやすさ、乾杯の場の一体感 |
| 打ち上げ2杯目以降 | ヴェリタスブロイ、龍馬1865 | 味わい重視、麦芽感で満足感 |
| 営業帰りの車内 | アサヒ ドライゼロ(0.00%系一択) | 翌朝収録前提、呼気検査リスク回避 |
| 楽屋での喉ケア | ノンアルワイン、はちみつレモン系 | 炭酸なしで声帯への刺激最小化 |
落語家・漫談師系の喉ケア重視スタイル
お笑いの中でも、落語家や漫談師のように長尺の一人語りをする芸人は、喉ケアの意識が特に強い。漫才の4分と落語の15分では、喉への負担が桁違い。この層はノンアルビールよりも、炭酸なしの飲料を選ぶ傾向がはっきりある。
ある若手落語家に聞いたら、高座前の30分は「はちみつレモン白湯」と「ノンアルワイン(カツヌマ・グレイス)」を交互に飲むと言っていた。ノンアルワインの渋みが、口内の粘りを取ってくれるらしい。この使い方は珍しい部類だけど、落語家界隈では時々耳にする。
炭酸を避ける理由は、高座中のゲップリスク。座布団に座って一人で15分話す間、途中でゲップが出たら興を削ぐ。噺家にとって間の一つひとつが芸なので、こういう物理的リスクをゼロに近づけたい。ここまで神経を使うのかと、話を聞いて驚いた記憶がある。
寄席の楽屋文化と現代の変化
新宿末広亭や浅草演芸ホールの楽屋文化は、昔ながらの「一杯やってから高座に上がる」師匠がまだいる。ただ、若手・中堅は明確にノンアル派が増えている。楽屋の冷蔵庫にドライゼロとお茶が並ぶ光景が、ここ3〜4年で普通になった。
これは世代交代の一つの表れだと思う。上の世代の「酒があってこその芸」という価値観と、下の世代の「体調管理も芸の一部」という価値観が、楽屋で共存している。どちらが正しいという話ではなく、両方の選択肢が尊重される空気が、劇場側から作られつつある。
深夜番組収録後のノンアル、翌日のパフォーマンス管理
深夜番組の収録は22時開始・翌1時終了みたいなスケジュールが普通で、そこから帰宅して翌朝10時にラジオ、みたいな詰まった日程を回してる芸人が多い。この間の睡眠の質を守るために、収録後の一杯をノンアルで済ませるのが、いまの主流。
アルコールを飲むと睡眠の後半で目が覚めやすくなる。REM睡眠が浅くなって、翌朝の判断力が落ちる。ラジオでフリートークをする芸人にとって、この判断力の低下は致命的。だから深夜の一杯はノンアルで済ませて、質の高い睡眠を確保する。
この考え方は[id:1731] の[経営者の接待文化変容記事](https://non-alcohol.love/2026/08/09/non-alcohol-executive-business-entertainment-shift/)とも通じる。翌日のパフォーマンスを守るために、今日の一杯を我慢するという発想が、業種を超えて広がってる。芸人もサラリーマン化してきた、と揶揄する声もあるけど、私は健全な変化だと思ってます。
SNS時代の飲酒リスクとノンアル選択
芸人がノンアルを選ぶもう一つの理由に、SNS時代の飲酒リスクがある。打ち上げで酔って発言したことがSNSに漏れて炎上、というケースがこの5〜6年で複数起きてる。特に2020年以降、飲食店での不用意な会話が客に録音されて拡散する事例が目立つ。
アルコールが入ると、話す内容の自制心が緩む。ネタの持ちギャグ・キャラを守れなくなる。芸人は「公人」に近い立場なので、この自制の緩みが仕事のダメージに直結する。だから素面を保つ手段として、ノンアルを積極的に選ぶ人が増えた。
この構造は[id:1763] の[アイドルのノンアル選択記事](https://non-alcohol.love/2026/08/13/non-alcohol-idol-underage-continuation/)と近い。ファンや世間から見られている職業ほど、飲酒管理の重要度が上がる。芸人もアイドルも、SNS時代の「見られる仕事」の一員として、同じ課題に直面している。
読者が自分で考えたい、これからの芸人と酒の関係
ここまで書いてきて、私自身も答えが出ていない問いがある。芸人にとって「素面のまま面白いか」という問題。昭和の名人たちは、酒があってこそ生まれた芸があった。談志も志ん朝も、酒との距離が芸の一部だった。この文化を、ノンアル時代がどこまで受け継げるのか。
一方で、若手芸人の中には「酒に頼らない面白さ」を追求する人が明らかに増えてる。深夜ラジオでノンアルの缶を片手に、素面のままシャープなトークを回す。この新しい芸のスタイルが、次の10年でどう成熟するか。私は楽しみに見てます。
読んでる方にも問いを渡したい。あなたが好きな芸人が、打ち上げでノンアルを飲むようになったら、それをどう感じますか。芸の質が変わると思うか、それとも本人の選択として尊重できるか。この感覚は人によって答えが違うと思う。正解はない。
よくある質問
Q1. 芸人が本番前にノンアルを飲むのは、いつ頃から一般的になったのか
体感では2019〜2020年前後が転換点だった。それ以前も個別の芸人が飲んではいたけど、劇場の楽屋に「ノンアル置きます」と冷蔵庫が用意されるようになったのはこの時期。コロナ禍で打ち上げ自体が減った時期に、家飲みでノンアルを試す芸人が増えて、そのまま定着した流れがある。
Q2. アルハラ対策として事務所が公式に通達を出しているのか
大手事務所(吉本興業、ワタナベエンターテインメント、太田プロ)は2022〜2023年頃に社内規程を明文化している。「後輩・部下への飲酒強要は懲戒事由」と明記されたものもあると聞く。ただ現場レベルでの浸透度には差があって、地方の営業先ではまだ古い文化が残ってる場面もある。
Q3. 芸人が使うノンアル銘柄で、他業種と一番違うものは何か
意外な選択として、落語家系が好むノンアルワイン(カツヌマ・グレイスなど)は他業種であまり見ない用途。喉の粘膜への刺激を最小化する目的で炭酸なしを選ぶ発想は、声を長時間使う仕事ならではの工夫。歌手や声優にも近い使い方をする人がいるけど、量的には落語家界隈が最も多い印象。
Q4. 若手芸人がノンアルを選ぶと、先輩からの評価に影響はあるか
5年前なら「付き合いが悪い」と評価に響くケースがあった。いまはむしろ「自己管理ができる」とプラス評価する先輩も出てきてる。特にテレビ出演が多い先輩ほど、翌日のパフォーマンスを守る意識に共感する傾向がある。ただ地方の営業現場や、古参の座長劇団などではまだ温度差があるので、一律の判断は難しい。
Q5. 深夜番組の収録後、実際にノンアルだけで帰る芸人はどれくらいいるのか
体感値で3〜4割程度。翌朝ラジオや朝番組がある芸人はほぼ100%ノンアルで帰る。オフの日は普通に飲みに行く人が多くて、完全な断酒派は少数。使い分けが徹底されてる印象で、「毎日ノンアル」ではなく「翌日仕事があるならノンアル」というスタンスが主流。
Q6. 芸人がノンアルを飲む姿を見せることに、キャラ的なマイナスはないのか
昔はマイナス要素だった。「飲めないキャラ」がネタとして成立する芸人は限られてた。いまはむしろSNSでノンアルの銘柄をレビューする芸人が増えて、それがコンテンツになる時代。健康志向の視聴者層とも親和性が高くて、ノンアル選択自体がキャラの一部になる場面も出てきてる。時代の変化が芸のあり方も変えてる、と感じます。


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