ノンアル飲料の卸価格と小売価格の差|マージンの仕組みを現場から解剖する

ノンアル飲料の缶と価格タグが並ぶ流通現場のイメージ ノンアル
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スーパーで198円で売られているノンアルビール。同じ銘柄を業務用で仕入れる居酒屋の伝票を見せてもらったら、1本あたり112円と書かれてました。差額は86円。この86円の中に、卸のマージン、物流費、小売の粗利、販促費、廃棄ロスの引当まで、ぜんぶ詰まってます。

業界に長く関わってきて、この価格構造の話は何度聞かれても答えづらい。守秘義務があるし、メーカーごと・チャネルごとに数字が違うから。ただ、公開情報と、私が現場で見てきた実感を混ぜて、輪郭だけは書けます。今日はその輪郭を、なるべく具体的な数字と一緒に置いていきます。

読み終わる頃には、198円のノンアルビールの内訳がなんとなく頭に浮かぶようになるはず。値付けの裏側を知ると、セールで安くなってる銘柄の「本当のお得度」も判断できるようになります。

198円の内訳を分解してみる

まず、ざっくりした平均像から入ります。国産大手ノンアルビール350ml缶を、スーパーで198円(税抜)で買った場合を想定。この198円がどう分配されるか、業界の相場感で書き出すとこうなります。

費用項目金額目安割合
製造原価(原料・容器・製造)約45〜55円25%前後
メーカー粗利・販管費・広告費約35〜45円20%前後
物流費(保管・配送)約10〜15円6%前後
卸マージン約15〜20円9%前後
小売マージン約40〜55円25%前後
販促協賛金・値引き引当約10〜20円7%前後
廃棄ロス引当・その他約5〜10円3%前後

数字はメーカーやチャネル、契約条件で大きく上下します。あくまで「こういう構造で組まれてる」という骨組みとして見てほしい。

面白いのは、製造原価が全体の4分の1しかないこと。原料の麦芽・ホップ・水・添加物、それに缶と製造ラインの償却を全部足しても、1本あたり50円前後にしかならない。残りの150円弱は、商品が工場を出てから店頭に並ぶまでにくっついてくる費用です。

ちなみに酒税との関係で「なぜ高いのか」という論点は別記事で詳しく扱っています。ノンアル飲料が酒税法対象外なのに安くない理由もあわせて読むと、この価格構造の背景がもう一段クリアになるはず。

メーカー出荷価格の決まり方

メーカーが卸に売る価格を「出荷価格」と呼びます。ノンアル350ml缶の場合、大手メーカーの標準的な出荷価格は1本あたり95円〜105円あたり。これが交渉のスタート地点になります。

ただ、この価格が全チャネル一律というわけじゃない。ここが業界のややこしいところで、取引条件によって実質的な出荷価格が変わります。大量に買う先には数量割戻し、棚を確保してくれる先には棚代協賛、新商品を積極的に扱ってくれる先には販促協賛。名目はいろいろですが、要は「あとで一部返す」仕組みが常態化してます。

建値と実質価格のズレ

公表されている「メーカー希望小売価格」は、あくまで建値。実際の取引価格はここから20〜30%引かれた水準で動いてます。350ml缶の希望小売価格が税抜147円だとしても、大手小売への実質出荷価格は100円を切ることもある。

だからスーパーが198円で売れる。仕入れが110円、粗利45%取っても198円で成立する計算になります。逆に言うと、個人経営の酒屋さんが同じ商品を仕入れると120円以上になるので、198円で売ると粗利が薄くて厳しい。この構造が「街の酒屋が消えていく」背景にあります。

製造原価の中身

製造原価50円の内訳もざっくり見ておくと、缶と蓋で15円前後、原料(麦芽エキス・ホップ・水・香料・炭酸ガス)で10〜15円、製造ライン償却と人件費で10〜15円、包装資材とパレットで5円前後。脱アルコール製法を使ってる銘柄は、真空蒸留や逆浸透膜の設備償却が乗って原価がもう5〜10円上がります。

製法による原価差については脱アルコール製法の3技術比較記事で詳しく書いてます。真空蒸留を使うドイツ産の高品質銘柄が国産より高い理由も、ここに理由の半分があります。

卸のマージンはなぜ薄いのか

意外に思われるかもしれませんが、飲料の卸マージンは薄い。粗利率で言うと8〜12%くらいが標準。1本100円で仕入れて110円前後で売る世界です。

なぜこんなに薄いか。理由は3つあります。まず、卸は基本的に「配送業」の色が濃い。メーカーから大量に仕入れて、小売や飲食店にきめ細かく届ける物流機能を担ってるので、粗利で儲けるというより回転数で稼ぐビジネスモデル。次に、大手小売の値引き圧力が卸に直接くる。イオンやセブンが「もっと下げろ」と言ったとき、その一部は卸が飲まされます。

3つ目は、飲料の卸が寡占化してること。国分、三菱食品、伊藤忠食品、加藤産業、あたりが上位を占めていて、新規参入がほぼない。安定してるように見えるけど、既存プレイヤー同士の競争は激しくて、価格でしか差別化しづらい構造になってます。

物流費の実態

1本あたり10〜15円の物流費、これがここ数年でじわじわ上がってます。2024年問題(トラックドライバーの残業規制)で長距離配送のコストが跳ね上がり、燃料費も高止まり。倉庫の電気代も上昇。結果、メーカーも卸も物流費の吸収に苦しんでいて、これが2023年以降のノンアル値上げの主因になってます。

ノンアルは常温流通できる商品が多いので、冷蔵が必要な生鮮に比べればまだマシ。ただし品質保持のために温度帯を管理する銘柄もあって、そこは流通時の温度管理のコストが上乗せされます。

小売マージンが厚く見える理由

表を見ると、小売のマージンが1本あたり50円前後で一番大きい。「小売が一番儲けてるじゃないか」と思われがちですが、実態はそんなに単純じゃないです。

小売粗利50円の中から、店舗の家賃、人件費、電気代、レジシステム費用、廃棄ロス、万引きロス、販促費、ポイント還元原資、みんな捻出しないといけない。飲料単体で見ると粗利率25%あっても、店舗運営費を差し引くと営業利益率は3〜5%まで下がります。

チャネル別の粗利率

チャネル粗利率特徴
コンビニ28〜35%定価販売中心、24時間人件費が重い
スーパー(大手)18〜25%特売で切り崩す、回転重視
ディスカウントストア10〜15%大量陳列、薄利多売
ドラッグストア20〜28%飲料は集客商品、粗利は薬でカバー
EC(Amazon等)15〜22%送料負担で実質さらに薄い
酒販店(個人)25〜35%仕入れ価格が高く、実収益は圧迫

コンビニのノンアルが高いのは、粗利率が高いからじゃなくて、そもそも仕入れコスト(人件費・店舗費込みの総コスト)が高いから。198円でスーパーで買えるものが、セブンイレブンで243円になるのはこの構造による差です。

値引きの原資はどこから来るか

「今週のノンアル特売、通常198円→148円!」みたいな値引き、あの原資はほぼメーカーの販促協賛金です。小売が身銭を切って値引いてるわけじゃない。メーカーが「この週に売り場を確保してくれるなら、1本あたり40円協賛します」と提案して、小売がその原資を使って店頭価格を下げる。

だから特売週は、メーカーの利益が削られてる週でもあります。年間の販促計画で「この銘柄には◯回特売を打つ、原資は◯円確保」と決まっていて、それを消化していく仕組み。ノンアル業界は競争が激しいので、この販促費比率が売上の10%を超えるメーカーもあります。

業務用(居酒屋・飲食店)の価格構造

冒頭で書いた、居酒屋の仕入れ価格112円。これは業務用ルートの標準的な数字です。家庭用と業務用は、同じ350ml缶でも流通が違うことがあって、価格帯も変わります。

居酒屋が仕入れ112円のノンアルを、メニュー価格500円(税抜455円)で出す。原価率は約25%。ビール類の中では標準的な原価率です。生ビール(アルコール)が原価率28〜32%あたりなので、ノンアルの方がむしろ利益率が高い商品として扱われることもあります。

この居酒屋側の仕入れと利益の実態は、居酒屋のノンアル仕入れ事情で数字入りで扱ってます。メニュー価格の決まり方の基本はこちらの記事を参照してください。

業務用ルートの卸マージン

業務用の卸(酒販免許を持つ業務酒販店)は、家庭用卸より少しマージンが厚めで15〜20%程度。理由は、配送単位が小さくてきめ細かい対応が必要だから。個人経営の居酒屋に1ケース単位で毎週配送するのは、スーパーに10パレット納品するより手間がかかる。その分の対価が上乗せされてます。

ただし、最近は業務用でも大手チェーン向けは家庭用に近い低マージン、個人店向けは従来通り厚めのマージン、と二極化してきてます。個人居酒屋のノンアル仕入れ価格が高止まりしてるのは、この構造のため。

輸入ノンアルの価格構造は別物

ヴェリタスブロイ、ハイネケン0.0、コロナセロ、Athletic Brewing。輸入ノンアルは、国産とは別の価格構造で動いてます。1本あたり250円〜500円と割高になるのは、いくつか理由が重なっているから。

まず、輸入時の関税と諸費用。ビールテイスト飲料は関税が課されるほか、通関手数料、輸送費(コンテナ費用)、輸入者マージンが1本あたり50〜100円乗ります。次に、輸入商社と国内卸で2段階の卸マージンが発生することが多い。「メーカー→輸入商社→国内卸→小売」の4層構造になるので、中間マージンが積み上がります。

費用項目国産(198円想定)輸入(350円想定)
製造原価約50円約60円(現地)
輸送・関税・通関10円約70円
輸入商社マージン約40円
国内卸マージン約17円約35円
小売マージン約50円約90円
その他・販促約20円約55円

輸入経路には正規輸入と並行輸入があって、価格差の理由もまた別。詳しくは輸入卸の仕組み記事を見てもらえると、この340円がどう組まれているかがつかめます。

EC販売の価格が微妙に読めない理由

Amazonや楽天でノンアルを買うと、なぜか同じ商品が販売店によって値段が違う。しかも定価より安いこともあれば、なぜか定価より高いこともある。これがECの価格構造の面白いところ。

ECの卸ルートは、大手小売と同じ「メーカー直取引」のところもあれば、業務用ルートで仕入れて転売してる小規模事業者もある。前者は仕入れコストが安いので定価より20%引きで売れる。後者は仕入れが高いので、送料や梱包費を乗せると定価を上回ることも珍しくない。

特に24本ケース売りの場合、送料込みで1本あたり180円を切ってくると、それはメーカー直取引ルートで仕入れてる大手ECか、ケース単位のセール品。1本あたり230円を超えると、送料分が乗ってる小規模販売者の値付けです。

プライベートブランド(PB)のマージン構造

セブンプレミアム、トップバリュ、みなさまのお墨付き。大手小売のPBノンアルは、価格構造がまったく違います。1本あたり128円〜148円で売られてることが多いのは、中間マージンを削れる仕組みになってるから。

PBの場合、小売が直接メーカー(もしくは製造委託先)と契約する。卸を経由しないので、卸マージンの15〜20円が消える。さらに広告費もほぼゼロ。パッケージデザインも最小限。この結果、製造原価は同等なのに小売価格を50〜70円下げられる。

ただし、PBを製造するメーカー側の利益は薄い。「量が捌ける代わりに、1本あたりの利益は半分」という取引になってます。大手ビールメーカーがPB製造を受託する理由は、工場の稼働率を上げて固定費を分散させるため。ノンアルは特に、専用ラインの償却が重いカテゴリなので、この稼働率確保が経営判断の中心にきます。

2024年以降の値上げが構造に与えた影響

2022年から2024年にかけて、ノンアル各社が段階的に値上げを実施しました。350ml缶で言うと、希望小売価格が140円台から147円、そして150円超へと動いてます。この値上げ、消費者側からは「便乗値上げでは?」と見られがちですが、内実は違います。

値上げ幅の内訳をざっくり分解すると、原料高(麦芽・ホップの国際価格上昇)で+4円、缶・容器価格上昇で+3円、物流費上昇で+3円、光熱費で+2円。合計で1本あたり+12円のコスト増になっていて、そのうち小売価格への転嫁は7〜8円程度。差額の4〜5円はメーカーが吸収してます。

個人的には、この吸収分がノンアル業界の体力を削っていくのが心配です。ソバーキュリアス市場が伸びてるとはいえ、儲かってるカテゴリじゃない。メーカーが疲弊すると新商品開発が止まって、結果的に選択肢が減る。消費者としては、応援したい銘柄をたまに正価で買うのも、長期的には意味があると思ってます。

よくある質問

Q1. なぜコンビニのノンアルはスーパーより高いのですか?

コンビニの粗利率が高いというより、店舗運営コスト(24時間営業の人件費・立地の家賃・光熱費)が高いのが主因です。同じ商品を扱っても、コンビニは1本あたり40〜50円多くコストがかかる。だから定価販売が基本になります。スーパーは大量陳列と回転で稼ぐモデルなので、粗利率を下げても成立します。

Q2. ノンアルの製造原価は本当に50円なのですか?

大手国産ビール系メーカーの標準的な数字として45〜55円が目安です。ただし脱アルコール製法(真空蒸留・逆浸透膜)を採用してる銘柄は、設備償却が上乗せされて60〜70円になることもあります。輸入品は現地の製造原価がもう少し高めで、日本到着時には関税や輸送費が加算されるので、原価構造そのものが違います。

Q3. メーカー希望小売価格と実際の店頭価格に差があるのはなぜですか?

希望小売価格はあくまで建値で、実際の取引はここから20〜30%引かれた実質出荷価格で行われます。大量に仕入れる大手小売は数量割戻しや販促協賛を受け取れるので、さらに実質仕入れが下がる。個人経営の酒屋は交渉力が弱いのでこの恩恵が薄く、結果として大手スーパーとの価格差が生まれます。

Q4. 輸入ノンアルが国産の2倍近い値段になるのはなぜですか?

輸送費(コンテナ料金)、関税、通関手数料、輸入商社マージン、国内卸マージンが積み重なるためです。国産の流通は3層(メーカー→卸→小売)ですが、輸入は4層(メーカー→輸入商社→国内卸→小売)になることが多く、中間コストが増えます。加えて為替の影響も受けるので、円安局面ではさらに割高になります。

Q5. 特売の148円は本当にお得なのですか?

お得ではあります。ただし小売が損してるわけではなく、メーカーの販促協賛金が原資になってることがほとんど。1本あたり40円前後の販促費がメーカー側から出ていて、小売の粗利は変わりません。年間の販促計画で決まった回数だけ実施される仕組みなので、頻繁に売り出される銘柄は競争が激しく、逆にほとんど値引きされない銘柄はブランド価値を守る戦略を取っていると読み解けます。

Q6. PB(プライベートブランド)ノンアルの品質は大丈夫ですか?

製造してるのは大手ビールメーカーやOEM専業メーカーであることがほとんどで、品質基準はナショナルブランドと同水準です。安いのは中間マージンや広告費を削っているためで、中身の原価がケチられてるわけじゃない。ただし、味の傾向はナショナルブランドと少し違うことがあるので、好みが分かれる部分はあります。

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