ノンアル飲料が格安航空会社(LCC)で扱われない理由|機内販売の経済学

LCC機内の座席テーブルに置かれた飲み物 ノンアル
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先月、家族で成田から福岡までピーチに乗った。子供が寝てくれた瞬間、機内販売のカタログをめくりながら「ノンアルビール、あったら1本頼むのに」と思った。でも、載ってない。缶ビールとハイボールはある。ノンアルはゼロ。

これ、たまたまじゃない。国内主要LCC3社(ピーチ、ジェットスター・ジャパン、スプリングジャパン)の機内販売メニューをここ2年ほど追いかけてきたけど、ノンアル飲料の常設ラインナップはほぼ皆無に近い。フルサービスキャリアのJAL・ANAが機内ドリンクでキリンフリーやドライゼロを標準搭載しているのと、真逆の対応になってます。

なぜLCCではノンアルが選ばれないのか。単純な「安いから」で片付けられない、機内販売という商売の構造そのものが関わってます。ノンアル業界の中の人として、ずっと気になっていたテーマなので、腰を据えて書きます。

LCC機内販売のリアル|そもそも何が売られているのか

ピーチの機内販売カタログを直近で確認したところ、ドリンク欄にはコーヒー、紅茶、緑茶、ジュース類、そしてアルコールとして缶ビール(アサヒスーパードライ350ml)とハイボール缶が並んでいた。価格はビールが500円前後、ソフトドリンクが300円前後。ノンアルビールの記載はどこにもない。

ジェットスター・ジャパンも似た構成で、アサヒの缶ビールとハイボール、缶チューハイが並ぶ。ノンアルは常設なし。スプリングジャパンに至っては、そもそも機内販売のドリンク種類自体が絞られていて、水・お茶・コーヒー・アルコール1〜2種に留まる。

これがJAL・ANAだと様相が違う。以前まとめた機内ドリンクでノンアルが定番化した経緯の記事でも触れたけど、フルサービスキャリアはキリンフリーやドライゼロを常時搭載し、しかも無料で提供している。同じ「空の上のドリンク」でも、扱われ方が180度違うんです。

機内販売メニューの比較表

航空会社ビールノンアルビール提供方式
JAL(フルサービス)あり(無料)キリン零ICHI等 無料ドリンクサービス
ANA(フルサービス)あり(無料)ドライゼロ等 無料ドリンクサービス
ピーチ(LCC)スーパードライ有料なし機内販売
ジェットスター(LCC)スーパードライ有料なし機内販売
スプリング(LCC)限定的なし機内販売

この差は「サービス思想の違い」だけじゃない。もっと根本的な、収益構造の問題が横たわってます。

SKU削減の鉄則|LCCが商品数を絞る本当の理由

LCCの経営を語る上で外せないキーワードが「SKU(在庫管理単位)削減」。要は、扱う商品の種類を極限まで減らして、オペレーションを単純化するという発想です。

機内販売の商品を1種類増やすと、何が起きるか。カートに積む在庫スペースが要る。CAが商品名を覚える必要がある。決済端末に商品コードを登録する。売れ残ったら次便に持ち越すか廃棄するかを判断する。カタログの印刷面積を消費する。1つの商品追加で、これだけの管理コストが発生します。

LCCの機内販売は、多くの場合CAが2〜4名しかいない体制で、1時間強のフライト中にサービスを完結させる。カート1台に載せられる商品数は物理的に限られる。この制約下では、「絶対売れる商品」を優先せざるを得ない。

ノンアルビールの機内販売需要は、正直そこまで大きくない。国内線1時間フライトでビール1本我慢できない人の絶対数を考えると、缶ビール派 > ソフトドリンク派 >>> ノンアルビール派、という構造になる。カート1マス分の価値としてノンアルは負ける、というのがLCCの合理判断なんです。

オペレーション効率の裏側

SKUを絞る発想は、LCCの機体運用そのものと同じ思想です。ピーチはA320系列で機材を統一している。ジェットスターも同様。整備、パイロット訓練、部品在庫を1機種に集約すればコストが劇的に下がる。この「単純化=コスト削減」のロジックが、機内販売にもそのまま適用されている。

ノンアルビールを追加すると、缶ビールとの取り違えリスクも増える。フルサービスキャリアのように無料ドリンクとして「お客様の好みで」提供するのと、機内販売で1本1本会計処理するのとでは、間違いのコストが全然違う。会計トラブルは、機内という密室では致命的です。

利益率の問題|ノンアルは航空機内で儲からない

ここが核心。LCCの機内販売は、単なるサービスじゃなく明確な収益源です。付帯収入(Ancillary Revenue)と呼ばれるカテゴリで、航空券以外の売上を積み上げる。座席指定料、預け入れ荷物料金、そして機内販売がここに入る。

LCCの営業利益率は薄い。エアラインビジネス全体でも5〜10%程度、LCCはさらに厳しい。だから機内販売1本1本の粗利が経営インパクトを持ちます。缶ビール1本500円で仕入れ150円なら、粗利350円で率70%。ここで「売れる」商品を並べたい。

ノンアルビールを機内で500円で売れるか。地上のコンビニで150円前後、居酒屋で400〜500円、というのが相場感。機内特価だからと600円つけると「割高すぎる」と拒否される。500円だと粗利が缶ビールより薄くなる可能性がある。ノンアルが酒税法との関係で微妙に高くなる構造もあって、地上との価格差を演出しづらい商品なんです。

回転率の観点

もう一つ、賞味期限と在庫回転の問題があります。缶ビールは需要が読める。ノンアルは需要のブレが大きく、便によって0本しか売れない日もある。在庫を積んで持ち帰る、あるいは他便に転用するオペレーションコストが乗ってくると、1本あたりの実効粗利はさらに削られる。

私も業界で商品担当をしていた頃、卸先から「回転が読めない商品は棚を割きたくない」と何度も言われた。機内販売は棚が超小さい上に、返品や陳列変更の柔軟性がゼロに近い。ノンアルにとって最も不利な販売チャネルの一つ、と言ってもいいと思います。

顧客層のミスマッチ|LCC利用者はノンアルを機内で欲しない

データが公開されていないので断定はできないけど、業界内の肌感として、LCC利用者は「機内で完結する消費」への支出をかなり絞る傾向がある。そもそもLCCを選ぶ動機の多くが「機内サービスにお金を払わず、目的地でお金を使う」というマインドセットだから。

ノンアル飲料を選ぶ人は、健康志向、運転前後、妊娠中、ソバーキュリアスなど背景がさまざま。ただ共通しているのは「わざわざお金を払ってノンアルを選ぶ」という価値判断がある人。この人たちの多くは、機内販売でノンアルを買うより、空港のコンビニで買って持ち込む、あるいは目的地で飲む、を選ぶ。

フルサービスキャリアの場合、ドリンクは無料。「せっかくだから普段飲まないノンアルを試してみよう」というトライアル需要が生まれる。LCCで500円払ってノンアルを試す動機は、正直かなり弱い。この構造的な需要の薄さが、供給側の判断を後押ししてます。

短距離フライトという条件

LCCの主戦場は国内線と近距離国際線。フライト時間は1〜3時間程度が中心。この時間帯で、「飲まずに我慢するくらいなら降りてから飲む」で済ませられる人が多い。長距離フライトのように「6時間の禁欲は無理、代替が欲しい」という切迫需要が発生しづらい。

これは以前調べた新幹線車内販売でのノンアル取り扱いと対照的で、新幹線は3〜5時間の旅程が多く、車内で完結する消費文化が強い。同じ「乗り物内販売」でも、時間軸と顧客心理が違うと、ノンアルの立ち位置がガラッと変わります。

仕入れロットとサプライチェーンの壁

LCC機内販売の仕入れは、便数とロットの関係で決まる。ピーチは1日100便以上飛ばすけど、1便あたりの機内販売取扱数は限られる。1商品を扱うには、最低ロットを消化できる需要見込みが必要になります。

ノンアルビール1本の仕入れ単価は、大手メーカーから直接卸してもらっても100円前後。缶ビールは酒税込みで150〜180円。単価だけ見ればノンアルの方が安いように見えるけど、これは「大量ロットを回せた場合」の話。少量発注だとメーカーの物流コストが乗って、実質的に缶ビールと大差ない仕入れ価格になることも珍しくない。

加えて、機内販売の商品は温度管理の観点でも制約がある。ノンアルビールは常温流通できるものが多いけど、冷やして出す前提だと保冷設備の問題が出る。カート内で他のドリンクと同じ冷却枠を奪う構造になります。

機内食ケータリング業者との契約

LCCの機内販売品は、多くの場合ケータリング業者経由で搭載される。空港ごとの契約業者を経由するため、全便共通の商品を出すには全国の業者に在庫を分散配置する必要がある。ノンアル1SKU追加のために全国分散在庫を組むのは、費用対効果で成立しにくい。

フルサービスキャリアなら、機内サービス品として自社便向けに集中発注し、ハブ空港で一括搭載できる。この物流構造の違いも、LCCがノンアルを扱いにくくしている隠れた要因です。

海外LCCとの比較|世界的にも同じ傾向か

視野を海外に広げると、傾向はほぼ同じ。RyanairやeasyJetといった欧州LCC、AirAsiaやスクート、セブパシフィックなどアジア系LCCの機内販売カタログを見ても、ノンアルビール類はごく限定的にしか登場しない。

唯一の例外的動きとして、中東系のフラッグキャリアや、ムスリム顧客の多い路線を持つLCCでは、ノンアルビールを扱うケースがある。宗教上の理由でアルコールを飲めない層が母集団として大きい市場では、ノンアルが「代替」ではなく「本命」として機能するからです。マレーシアのAirAsia XやフライドバイなどはHalal対応ノンアルを一部搭載してます。

日本市場に戻ると、この宗教的動機がほぼゼロ。ノンアルの需要は健康志向やソバーキュリアスといった「選択の自由」の文脈で発生していて、機内販売という制約の強い場所で無理に選ばれる必要がない。この点が、LCCがノンアルに冷淡な最大の理由かもしれません。

今後の可能性|LCC×ノンアルは動くのか

個人的には、5年以内にLCC機内販売にノンアルが登場する可能性は低くはないと思ってます。理由は3つ。

1つ目、日本国内のノンアル市場が拡大を続けていること。市場が5年前の1.5倍規模まで来ていて、機内販売でも取り扱う意義が出てくる閾値に近づいてます。2つ目、LCCも徐々に付帯収入の多様化を求めていて、単価を上げた「プレミアム機内販売」を模索している。3つ目、健康志向のインバウンド観光客が増えていて、彼らへの訴求としてノンアルが有効な武器になり得る。

ただし、それが実現するとしても、常設ではなく期間限定コラボや、特定路線での試験販売という形になる可能性が高い。SKU削減の鉄則を守りつつ、話題性で売る、というLCCらしいやり方です。

ノンアルメーカー側からのアプローチも重要になってくる。機内販売専用の小容量パック、コンパクトな保管形態、季節性のあるフレーバー展開など、LCCの制約に合わせた商品開発ができれば、扉が開く可能性はあると感じてます。

利用者側の対処法|LCCに乗る時のノンアル準備

現時点でLCC機内でノンアルを飲みたい人へ、実用的なアドバイスを書きます。基本は「持ち込む」の一択。国内線であれば液体持ち込みに大きな制限はなく、350ml缶なら手荷物で問題なく機内に入れられます。

ただし、注意点が2つ。まず、多くのLCCは「機内に持ち込んだ飲食物を機内で消費すること」を許可しているけど、缶を開ける時の音や匂いへの配慮は必要。周囲の乗客との関係が悪くならない範囲で楽しむのがマナーです。次に、国際線の場合は液体の機内持ち込み制限(100ml以下)が適用されるので、保安検査後に空港ラウンジや売店で買うのが現実的。

成田・関西空港などLCCが多く発着する空港には、保安検査後のショップでノンアルビールを扱う店舗が増えてます。私も最近は、成田T3のコンビニで缶ノンアルを1本買って搭乗するのが定番の流れになってます。300円前後で買えて、機内販売の500円缶ビールを我慢する満足感も得られる、というちょっとしたライフハック。

よくある質問

Q. ピーチやジェットスターに事前にノンアル飲料をリクエストできますか?

現時点で、LCC各社の機内販売は事前予約制の対象商品が限定的で、ノンアル飲料の事前リクエストには対応していません。フルサービスキャリアのJAL・ANAは事前特別食リクエストの一環でノンアル選択が可能な場合がありますが、LCCは基本「その場での機内販売」のみ。持ち込みが確実な選択肢になります。

Q. 国内線LCCにノンアルビールを持ち込んで機内で飲んでも問題ないですか?

国内線LCCでは、市販のノンアル飲料の持ち込みおよび機内での消費は原則問題ありません。ただしアルコール類の持ち込み消費は禁止されているLCCが多いので注意。ノンアルビールはアルコール1%未満(多くは0.00%)なのでこの規定に抵触しない、というのが業界の一般的な解釈です。心配な場合は搭乗前にCAへ確認するのが確実です。

Q. なぜフルサービスキャリアではノンアルが無料で提供されるのですか?

JAL・ANAはドリンクサービス全体を航空券価格に組み込む「フルサービス」を掲げていて、コーヒー・お茶・ジュース・アルコール類・ノンアルすべて追加料金なしで提供します。ノンアルはこのラインナップの中で「妊娠中・運転前・健康志向の乗客への配慮」として位置付けられていて、企業イメージ戦略の一環でもあります。LCCはこの「サービス込み価格」自体を廃したビジネスモデルなので、根本的に構造が違うんです。

Q. LCCの国際線でもノンアルは扱われていませんか?

ピーチ、ジェットスター・ジャパン、スプリングジャパンの国際線でも、ノンアルビールの機内販売常設はほぼありません。ただしイスラム圏路線を持つ一部の海外LCC(AirAsiaの一部路線など)ではHalal認証ノンアルを扱う例があります。日本発着のLCC国際線に限れば、国内線と同じく「持ち込み推奨」が現実的な対処法です。

Q. 今後LCCでノンアル取り扱いが増える見込みはありますか?

短期的には常設化は難しいと考えていますが、期間限定コラボや特定路線での試験販売の形で登場する可能性はあると見ています。ノンアル市場の拡大、LCCの付帯収入多様化、インバウンド需要の増加、この3つが揃うと動きが出やすい。5年スパンで見れば、何らかの形でLCC×ノンアルの接点は増えていくと予測しています。

Q. LCC以外に、ノンアルが扱われにくい交通機関はありますか?

高速バス、フェリーの一部などもノンアルの取り扱いは限定的です。共通するのは「販売スペースが狭い」「顧客単価を抑えている」「短時間移動が中心」という条件。逆にノンアルが売れているのは、新幹線、フルサービス航空会社、高速道路SA、ホテルなど「時間的余裕があり、選択肢が価値になる」場所です。この対比を理解すると、なぜLCCで扱われないかがより立体的に見えてきます。

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