先週、渋谷のスタバで隣のテーブルに座った30代くらいの女性2人組が、片方はラテ、もう片方は「ノンアルコールのモヒートみたいなやつ」を頼んでました。夕方5時。仕事終わりの1杯を、コーヒーでもビールでもなく、ノンアルカクテルで済ませる時代なんだと妙に納得しました。
カフェチェーンがノンアル飲料を扱う動きは、この2〜3年で明らかに変わりました。スタバのモクテル系ドリンク、タリーズの季節限定シロップドリンク、ドトールのフルーツ系ノンアルスパークリング。「コーヒー屋さんが何やってるの」と思う人もいるかもしれませんが、ここには明確なビジネスロジックがあります。
この記事では、カフェチェーンがなぜノンアルに手を伸ばし始めたのか、どんなメニューを出しているのか、そして今後どこまで広がるのかを、業界の中で見てきた立場から整理していきます。
カフェチェーンがノンアル飲料に注目する背景
カフェが「コーヒーを売る場所」から「非アルコールの滞在空間を売る場所」に少しずつシフトしています。特にコロナ以降、在宅ワークの合間に立ち寄る、夜まで長居する、といった利用が定着しました。夕方以降に来店する客に対して、コーヒーだけでは提案が弱い。かといって酒類免許を取って居酒屋化するのはブランドが崩れる。ここでノンアルが刺さります。
もう1つの背景が、若い世代の飲酒離れです。国税庁の統計でも、20代の飲酒習慣率は10年前と比べて明確に下がっています。カフェチェーンの主要顧客層である20〜30代の女性は、そもそも「お酒じゃない選択肢」を求めている。ノンアルモクテルやスパークリング系のドリンクは、この層のニーズにピタッとハマります。
Z世代の飲酒行動については以前Z世代のアルコール離れと新しいコミュニケーションでも触れましたが、カフェチェーンはこの流れを商機として敏感に捉えています。
客単価アップという明確な狙い
コーヒー1杯の平均単価は400〜500円。ここに700〜900円のモクテルやフルーツ系ドリンクが1杯乗ると、客単価が一気に伸びます。フード原価は据え置きでドリンクだけ底上げできるので、利益率的にも美味しい。カフェチェーン本部の商品企画担当者と話すと、この「客単価の天井を破る手段としてのノンアル」という表現がよく出てきます。
実際、スタバのフラペチーノが季節ごとに1000円近い商品を投入して当たり続けているのは、こういう単価戦略の延長線上にあります。ノンアルモクテルも同じ論理で、通常のドリンクより2〜300円高くても売れる。
滞在時間の延長と夕方以降の売上
朝〜昼のコーヒー需要と、夕方以降の「何か飲みたいけど酒じゃない」需要は、時間帯が完全に分かれています。後者を取れるかどうかで、1店舗あたりの日商が変わります。カフェの席稼働率を見ても、15時〜18時が空きがち。ここにノンアルという武器を持ち込むと、時間帯の埋まり方が変わります。
スタバのノンアル系ドリンク展開
スターバックスは海外市場、特に欧米で先行してモクテル系ドリンクを展開してきました。日本国内でも、フルーツ系のリフレッシャーズ、シトラス系のスパークリング、季節限定のフラッペ系など、実質的にはノンアルモクテルに分類できるドリンクが増えています。
ポイントは、スタバは「ノンアル」というワードを商品名にほぼ使わないこと。カフェブランドとしてのアイデンティティを保ちながら、結果的にノンアル飲料として機能するドリンクを提供する。この設計が上手いんです。「ノンアルカクテル飲みに行こう」ではなく「スタバの新作飲みに行こう」で来店してもらう。マーケティング的にはこっちの方が広く刺さります。
米国のスタバでは、2024年頃から「Spicy Refreshers」やジンジャー系のクラフトモクテル的なラインナップが出ています。日本でも同じ路線が段階的に入ってくるはずで、ここ2年で品揃えは相当変わると見てます。
ドリンク開発の裏側
スタバの新作ドリンクは、東京の商品開発チームが1〜2年かけて仕込むケースが多いと聞きます。フルーツピューレ、シロップ、ハーブ系エッセンス、炭酸のバランスを何十パターンも試して、最終的に3〜4種類に絞り込む。ノンアルモクテルの世界と同じ設計思想です。
モクテルの語源についてはモクテルの語源とカクテル文化革命の記事でまとめていますが、スタバのアプローチはまさに「モックカクテル」を大衆化する動きです。
タリーズコーヒーのノンアル的アプローチ
タリーズは、スタバとは少し違う方向でノンアル領域に踏み込んでいます。季節限定のスワークルシリーズや、フルーツシロップを使った炭酸系ドリンク。カフェのメニューに「ノンアルスパークリング」的な立ち位置のものを、じわじわ増やしています。
タリーズの特徴は、フード提供に力を入れていること。パスタ、サンドイッチ、ホットドッグなど、食事と一緒に楽しめるドリンクとしてノンアル系を位置付けています。「ランチにビールは飲めないけど、水やアイスコーヒーでは物足りない」という需要にちょうど収まる商品設計です。
個人的に興味深いのは、タリーズがカフェとバーの中間みたいな空間を作り始めていること。夜9時、10時まで営業している店舗が多く、酒はないけれど酒を飲まない層の「夜の居場所」として機能している。ここでのノンアル系ドリンクの売れ行きは、業界内でも結構注目されてます。
季節限定商品の破壊力
タリーズのハニーミルクラテ系、フルーツロイヤルミルクティー系は、季節ごとに派生商品が出ます。夏場はここに炭酸ベースの「大人向けノンアル」的なドリンクが加わることが増えました。SNSでの話題性も高く、若い層のリピート来店を作る主力商品になっています。
主要カフェチェーンのノンアル対応比較
| チェーン | ノンアル系ドリンクの傾向 | 価格帯 | 主なターゲット |
|---|---|---|---|
| スターバックス | フルーツリフレッシャーズ、季節モクテル | 500〜700円 | 20〜40代女性 |
| タリーズコーヒー | スワークル、フルーツ炭酸系 | 500〜650円 | ビジネス層+女性 |
| ドトール | 季節限定フルーツドリンク | 400〜550円 | 幅広い年齢層 |
| コメダ珈琲 | クリームソーダ、フルーツ系 | 500〜700円 | ファミリー層 |
| 星乃珈琲 | フルーツソーダ、ジンジャー系 | 500〜700円 | 30〜50代 |
| ブルーボトル | コールドドリンク、シトラス系 | 600〜800円 | 感度高めの20〜30代 |
こうやって並べると、価格帯が明確に「コーヒー+200円」ゾーンに集まっているのが見えます。ここが今のカフェチェーンにおけるノンアル系ドリンクの相場感です。
なぜカフェで「ノンアルビール」は主流にならないのか
ここで疑問に思う人もいると思います。「ノンアル市場の主力はビールなのに、なぜカフェチェーンはノンアルビールを置かないのか」と。答えはシンプルで、ビールテイストはカフェの空間と味覚的にミスマッチだからです。
コーヒーの香りが充満した店内で、ホップの苦味が効いたノンアルビールを飲みたい人はほぼいません。逆にフルーツ系、シトラス系、ハーブ系のモクテルは、カフェの香りと喧嘩しない。この「空間との相性」という視点は、飲料開発では地味に重要です。
ノンアルビール自体の品質は年々上がっていて、2026年版ノンアルビールランキングでまとめた通り、本物と遜色ないレベルまで来ています。でも「どこで飲むか」で選ばれる商品と選ばれない商品が分かれる。カフェチェーンはノンアルビールを扱わない代わりに、ノンアルモクテル領域を深掘りする方向に振っています。
酒類免許の壁
技術的には、日本の酒税法上「アルコール度数1%未満」であればノンアル飲料として販売でき、酒類免許は不要です。カフェでもノンアルビールを置くこと自体は法的に問題ありません。ただ、ビールテイストの原液を仕入れ、冷蔵管理し、専用グラスを揃え、フード提案も含めて商品化するとなると、オペレーションコストが跳ね上がる。ここが実務的なハードルです。
カフェのノンアル展開が業界に与える影響
カフェチェーンがノンアル領域に本気で入ってくると、既存のノンアル業界の景色が変わります。今までノンアル飲料は「居酒屋の代替」「家飲みの選択肢」として設計されてきましたが、カフェ経由で「日常的なリフレッシュ飲料」として市場に投入されると、需要層が一気に広がります。
特に大きいのが、「お酒を飲まない人がカフェで新作ノンアルモクテルに慣れる → コンビニやスーパーで似た系統のノンアル飲料を買うようになる」という導線ができること。カフェが入口になって、家飲みノンアルの市場を拡張してくれる可能性がある。これはメーカー側にとってもプラスです。
ホテル朝食ビュッフェの流れとも似ています。以前ホテル朝食ビュッフェのノンアル増加を書きましたが、あそこも「非日常の場でノンアルに触れて、日常で選ぶようになる」流れです。カフェチェーンはこれの日常版と言えます。
飲食店経営者にとってのヒント
カフェチェーンの動きは、個人経営の飲食店やカフェにも応用できます。難しい設備投資は不要で、フルーツピューレとハーブ、良質な炭酸水、フレッシュ柑橘を揃えれば、それらしいモクテルは作れます。500〜700円のプライスゾーンで提案できれば、客単価改善の即効薬になります。
今後の展開予測|カフェ×ノンアルはどこまで伸びるか
あくまで個人的な予測ですが、2027〜2028年頃には主要カフェチェーンの「ノンアル系ドリンク専用メニューカテゴリ」が明確に立ち上がると見てます。今は季節商品や新作の中に紛れて出ていますが、これが独立したカテゴリとして常設化する。
もう1つの動きが、カフェとバーの融合。夜間帯にノンアルモクテルを主力にした「ノンアルバー」的なカフェが増えると思ってます。すでに東京・大阪の一部では、こういう業態のオープンが始まってます。スタバやタリーズも、24時間じゃないにせよ夜10時、11時まで営業する店舗が増えれば、この方向にじわじわ動くはずです。
海外の動きを見ると、ロンドンやニューヨークでは「ソバーカフェ」「ゼロプルーフバー」というジャンルが確立しつつあります。日本のカフェチェーンがこの潮流に乗るのは、時間の問題だと感じてます。
オリジナルノンアルブランドの可能性
面白い動きとしては、カフェチェーンが自社ブランドのノンアル飲料をボトル・缶で販売する未来もあり得ます。スタバのボトルコーヒーが定着したように、スタバのノンアルモクテルが瓶やペットボトルで並ぶ日が来るかもしれない。UCC、ネスレあたりも同じ検討をしているはずです。
よくある質問
Q1. スタバやタリーズで「ノンアルコール」と明記された飲み物はある?
現時点では、両チェーンとも商品名やメニュー表記で「ノンアルコール」を強調するケースはあまりありません。フルーツリフレッシャーズやスパークリング系ドリンクなど、結果的にノンアルとして機能する商品が多いという構造です。海外店舗では明示的にモクテルと打ち出す動きがあり、日本もいずれ追随する見込みです。
Q2. カフェでノンアルビールを頼めるお店はある?
大手チェーンではほぼありませんが、個人経営のカフェやブックカフェ、コワーキング併設カフェの一部でノンアルビールを置く店が増えています。ドイツ産のクリアな味わいのものを揃えている店が多い印象です。事前に店舗に確認するのが確実です。
Q3. カフェのノンアルモクテルは自宅で再現できる?
再現できます。ベースは炭酸水、フルーツピューレ、シロップ、ハーブ、柑橘。これらを組み合わせるだけで、カフェで飲むレベルの1杯が作れます。市販のノンアルシロップや高品質なフルーツジュースを揃えると、レパートリーが一気に広がります。
Q4. なぜコンビニコーヒーではノンアル系ドリンクが増えないのか?
コンビニコーヒーは「淹れたてを100〜300円で提供する」ビジネスモデルで、複雑なドリンクは手間とコストが合いません。代わりにコンビニ側は、冷蔵ケースでボトル入りノンアルモクテルやフルーツ系ドリンクを扱うことで需要に応えています。役割分担ができている状態です。
Q5. カフェのノンアル系ドリンクは健康志向の人向けに増えているの?
健康志向は動機の1つですが、それだけではありません。運転する人、妊娠中の人、宗教上お酒を飲まない人、単純に酒が好きじゃない人、夕方以降のリフレッシュ需要など、複数の需要が重なっています。カフェチェーンはこの多様な層を1つのメニューで拾える設計を工夫してます。
Q6. 今後、カフェでハラル対応やヴィーガン対応のノンアルは増える?
インバウンド需要の回復に合わせて、確実に増えると予想してます。ハラル認証を取得したシロップやプラントベースのミルクを使ったモクテルは、ホテルレストランで先行導入されていて、カフェチェーンでもテスト展開が始まっている段階です。


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