都内の中堅居酒屋チェーンで、ドリンクメニュー会議に同席させてもらったことがある。議題のひとつが「ノンアルの利益率が低すぎる」。仕入れ値は1本140円前後、店頭価格は500円。一見すると原価率28%で悪くない数字に見える。でも担当者は渋い顔をしていた。「実質的には赤字に近いんですよ」と。
この感覚、外から見ているとなかなか伝わらない。生ビールは原価率35%でも利益が出るのに、原価率28%のノンアルが「割に合わない」と言われる。その理由を、卸の単価表からFLコスト、注文単価の構造まで含めて、業界の実際を書きます。
取材したのは個人居酒屋3店、中堅チェーン2社、大手酒販卸1社。数字はすべて2026年時点の聞き取りベースで、店舗規模や立地で変動します。あくまで実態の幅として読んでもらえると。
居酒屋がノンアルを仕入れる主なルート
まず仕入れの入口から。居酒屋がノンアルをどこから買っているか、ここが価格を決めます。
大きく分けると、酒販卸(カクヤス・ジャパンミート・地場の酒問屋)、メーカー直取引、業務スーパーやコストコでのスポット仕入れ、の3ルート。チェーン店は本部一括の卸契約、個人店は地場の酒問屋にケース単位で発注、というのが定番です。
聞き取りした個人店の店主さんは「うちは月に5ケース程度しかノンアル出ないから、卸の最安値は引き出せない」と話していた。発注量が少ない店ほど仕入れ単価は上がる構造で、これがそのまま原価率を圧迫します。
卸ルートごとの単価感
| 仕入れルート | 1本あたり単価(350ml缶) | 主な利用層 |
|---|---|---|
| 大手酒販卸(年間契約・大量発注) | 110〜130円 | 大手チェーン |
| 中堅卸・地場酒問屋 | 130〜150円 | 中堅店・個人店 |
| 業務スーパー・コストコ | 100〜140円 | 個人店のスポット仕入れ |
| メーカー直取引 | 105〜125円 | 大手チェーン本部 |
| ECサイト(楽天・Amazon) | 150〜200円 | 緊急時の補充用 |
同じドライゼロでも、月に1000ケース動かすチェーンと月5ケースの個人店では、1本あたり20〜30円の差が出る。年間で数百万円規模の差になります。スーパーや小売の購入チャネルごとの違いと、業務用の仕入れは構造が別物だと知っておくと、価格差の理解が早いです。
輸入ノンアル(ハイネケン0.0、ヴェリタスブロイ等)は、また別ロジック。正規輸入と並行輸入で単価が違い、並行品は安いけど安定供給が読めない。詳しくは並行輸入のリスクをまとめた記事に書きました。
原価率の実態|表面の数字と実コストのギャップ
ここからが本題。原価率の表面値と、実コストの話。
ノンアルビール1本の店頭価格を500円、仕入れ140円とすると、原価率28%。飲食業界では原価率30%が標準的な目安なので、これだけ見れば優秀です。でも現場の人は「割に合わない」と言う。なぜか。
まずFLコスト(Food + Labor)の概念で考える必要がある。ノンアル1本を出すための作業は、生ビールを注ぐより速いけれど、グラスを出して、栓を抜いて、注いで、お通しと一緒に運ぶ。この一連の人件費は、客単価が高いか低いかで「重み」が変わります。
客単価との関係で見ると見え方が変わる
居酒屋の客単価は平均3500〜4500円。お酒を飲む客の場合、生ビール、ハイボール、サワー、日本酒と4〜6杯回ります。1人あたりドリンク売上は2000〜2500円。
ノンアル客はどうか。聞き取りした店舗のデータだと、ノンアル中心の客は1人2〜3杯。ドリンク売上は1000〜1500円。生ビール客の半分です。同じ席を同じ時間占有して、売上は半分。これが「ノンアルは割に合わない」の正体です。
原価率だけ見れば優秀でも、席単価で割ると見え方が変わる。1席2時間で生ビール客が3500円使い、ノンアル客が2200円しか使わないなら、店からすれば席効率1.6倍の差です。
廃棄ロスも見えにくいコスト
ノンアル飲料の賞味期限は製造から9〜12ヶ月。瓶ビールや缶ビールより短めです。回転の遅い店舗だと、賞味期限切れによる廃棄が発生する。月10ケース仕入れて2ケース廃棄すれば、実質原価率は20%上振れします。
このあたりは小売の在庫管理記事で書いた構造と似ています。動きの遅い銘柄を抱えると、見えないところでコストが膨らむ。居酒屋でも同じことが起きてます。
大手チェーンと個人店で違う「利益の出し方」
同じノンアルを売っていても、店の規模で利益構造はまったく違います。
大手チェーン(鳥貴族、ワタミ、モンテローザ系)の場合、本部一括仕入れで単価110円前後。販売価格は350〜450円。原価率25%前後で運用してます。彼らの強みはスケール。発注量が多いから単価が安く、廃棄リスクも回転で吸収できる。
中堅居酒屋(地域チェーン、個人経営の3〜5店舗規模)は、卸単価130〜150円、販売価格450〜550円。原価率28〜33%。ここが一番きつい層で、規模のメリットも個人店の柔軟性もない中間ポジション。
個人店は仕入れ単価こそ高いけれど、メニュー設計の自由度がある。クラフトノンアルを700〜900円で出して原価率を低く抑えたり、ノンアルカクテルを1000円で出して付加価値で勝負したり。価格決定権を持てるのが個人店の強み。
価格帯別の利益構造
| 店舗タイプ | 仕入れ単価 | 販売価格 | 原価率 | 1本あたり粗利 |
|---|---|---|---|---|
| 大手チェーン | 110円 | 380円 | 29% | 270円 |
| 中堅居酒屋 | 140円 | 500円 | 28% | 360円 |
| 個人店(一般品) | 150円 | 550円 | 27% | 400円 |
| 個人店(クラフト) | 280円 | 850円 | 33% | 570円 |
| ホテル・高級店 | 180円 | 900円 | 20% | 720円 |
1本あたりの粗利だけ見ると、ホテルや高級店が圧倒的。クラフトノンアルを高単価で出せる店は、ノンアル比率が高くても利益が出る構造を作れます。
メニューに載せるノンアルの選び方|店側のロジック
居酒屋がどんなノンアルを置くかは、客層と回転で決まります。
サラリーマン中心の駅前居酒屋は、ドライゼロ・オールフリー・グリーンズフリー・ヴェリタスブロイあたりの定番3〜4本を回します。知名度が高くて、注文が読めて、在庫が滞留しない。これが業務用で選ばれる第一条件。
女性客が多いダイニングバーは、ノンアルカクテル、ノンアルスパークリング、ノンアルワインまで揃える。客単価を上げる戦略です。1杯900円のノンアルモヒートは、生ビールよりも粗利率が高い。プロが使うノンアルカクテルシロップの記事に、業務用商材の選び方を詳しく書きました。
高級寿司・割烹は、ノンアル日本酒や月のしずく、月桂冠フリーを置く店が増えてます。客単価15000円のコースで、運転手の同伴客や妊婦さんに「お酒の代わり」を提供しないと商機を逃すから。1杯1200円で出しても、客は文句を言わない世界です。
SKU数の最適化が利益を決める
ノンアルを5種類も6種類も置く店は、たいてい廃棄に苦しんでます。回転しない銘柄を切って、定番3本に絞った店の方が利益率が高い。これはどの業態でも共通でした。
取材した中堅チェーンの担当者は「ノンアルは3本に絞った。ビアテイスト系1本、カクテル系1本、スパークリング系1本。これで95%の注文をカバーできる」と話していた。シンプルにするほど在庫が回って、廃棄が減って、結果として利益が出る。
ノンアル比率が高い店ほど客単価設計が難しい
近年増えているのが、ノンアル比率が10〜20%を超える店。健康志向、運転客、ソバーキュリアスの広がりで、「お酒を飲まない客」が無視できない規模になってきました。
ノンアル比率15%の店で試算した数字。月商1000万円、ドリンク売上比率45%(450万円)、そのうちノンアル15%(67.5万円)。ノンアル原価率28%として、ノンアル粗利は約49万円。これがアルコール客に置き換わると、客単価ベースで月50〜80万円の機会損失になる計算です。
だから飲食店経営者の中には「ノンアル客は来てほしくない」と本音を漏らす人もいます。でも、これは時代に逆行してる。ノンアル充実が客単価アップにつながる戦略を以前まとめましたが、ノンアルを「コストセンター」ではなく「集客装置」と捉え直す店が伸びてます。
ノンアル客が連れてくる「アルコール客」
4人グループの中に1人ノンアル客がいる場合、その店にノンアルがなければ4人全員別の店に行く。逆にノンアルが充実してれば4人とも来てくれる。残り3人のアルコール売上を取れるかどうか、これが本質。
大手チェーンがノンアルを必ず置くのは、この「グループ集客の取りこぼし防止」が大きい。1本の粗利だけ見れば微妙でも、客数全体への影響を含めれば必須投資です。
価格設定の心理学|なぜ500円が定着したのか
居酒屋のノンアル価格、500円前後に集中してます。これにも理由があります。
1つ目は「生ビールと同価格帯」の原則。生ビール中ジョッキを500〜600円で出してる店が、ノンアルだけ300円にすると「ノンアル=安物」のイメージがつく。逆に700円にすると「水なのに高い」と思われる。同等価格でバランスを取る発想です。
2つ目は心理的価格帯。300円台だと「もう1杯」と頼みやすいけど、500円だと1杯で終わる客が多い。ノンアル客の注文単価を1杯で取り切る価格設計、と言えます。
3つ目は仕入れコストとのバランス。140円仕入れの場合、500円なら原価率28%で許容圏内。これより安くすると粗利が薄くなりすぎて、人件費を吸収できなくなる。
最近の値上げ事情
2023〜2025年にかけて、ノンアル価格は350円→450円→500円と段階的に上がってきました。原材料高、輸送費高騰、酒販卸の値上げが効いてます。500円が「新しい標準」になりつつある状況。
個人的には、もうワンランク上がる気がしてます。あと2〜3年で550〜600円帯が標準化するんじゃないか。クラフトノンアルが入ってくると、800円帯のメニューも増える。価格帯の二極化が進むと思ってます。
飲食店オーナーへの提案|ノンアルで利益を出す3つの設計
取材を通じて見えた、ノンアルで利益を出す店の共通点を整理します。
1つ目、SKUを3本以内に絞る。ビアテイスト系・カクテル系・スパークリング系の3カテゴリーで定番を1本ずつ。回転を上げて廃棄を減らす。これだけで原価率が3〜5%改善します。
2つ目、付加価値メニューを必ず1つ用意する。ノンアルカクテルを800〜900円で出す。レモンやハーブをトッピングして「特別感」を演出。これで全体の客単価が上がる。
3つ目、ノンアル客向けのおつまみセットを設計する。ノンアル500円+おつまみ800円のセットで1300円、もしくはノンアルフリー飲み放題プランで客単価を底上げ。「飲まない客の客単価をどう作るか」が次の競争軸だと思ってます。
将来的にはサーバー展開も視野に
ノンアル生ビールサーバーを置く店が、じわじわ増えてます。樽詰めのノンアルは1杯あたり原価が80〜100円まで下げられる。価格は500円のまま、原価率20%以下を実現できる選択肢。設備投資は必要ですが、ノンアル比率が高い店なら回収可能です。
よくある質問
居酒屋のノンアル原価率は本当に28%なのですか?
表面的にはその水準です。仕入れ140円・販売500円なら原価率28%。ただし廃棄ロス、人件費、席占有時間を加味した実質コストでは35〜40%相当になることもあります。原価率の数字だけで判断するのは危険で、席単価や粗利の絶対額で見るのが業界の標準。
なぜノンアルの仕入れ単価は店舗規模で大きく違うのですか?
発注ロットの差です。年間10万ケース動かす大手チェーンと、月5ケースの個人店では、卸との交渉力がまったく違う。卸も大口顧客に最安値を出して取引を確保したいので、必然的にスケールメリットが効きます。1本あたりで20〜30円、年間で見ると数百万円の差になります。
ノンアルカクテルは原価率が高いのに、なぜ店が積極的に出すのですか?
1本あたりの粗利額が大きいからです。原価率は33%でも、販売価格850円なら粗利570円。500円のノンアルビールの粗利360円より、1杯あたりの利益が200円多い。原価率の数字より、粗利の絶対額で稼ぐ設計です。
個人店がノンアルで利益を出すには何から始めればよいですか?
まずSKUを3本以内に絞ること。動かない銘柄を切るだけで、原価率が改善します。次に付加価値メニューを1つ作る。ノンアルカクテルやクラフトノンアルを800〜900円帯で用意し、客単価を引き上げる。最後に、ノンアル客向けのセットメニューやおつまみ訴求で、全体の客単価を作り込むこと。
ノンアル比率が高い店は儲からないのですか?
従来の構造では儲かりにくいです。アルコール客に比べて客単価が30〜40%低いから。ただし最近は「ノンアル充実が集客装置になる」店が増えてます。グループの中の1人がノンアル客でも、グループ全体を取り込めれば、結果として売上は上がる。ノンアル単体の利益ではなく、客数全体への貢献で見るのが正しい捉え方です。
輸入ノンアル(ハイネケン0.0など)の仕入れはどうですか?
正規輸入だと1本180〜220円、並行輸入だと130〜170円。販売価格を700〜900円に設定できれば、粗利は国産より大きい。ただし並行輸入は供給が安定しないリスクがあり、賞味期限が短い在庫が来ることもある。安定したメニュー設計には正規輸入がおすすめです。


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