ロンドンのスーパーで棚を見たとき、最初に「NoLo」という表示を見つけて、正直何の略か分からずスマホで調べた。No & Low Alcoholの頭文字をとった言葉で、棚の幅は3メートル近く。ビール、ワイン、スピリッツ、カクテルが整然と並んでいて、日本のノンアル売り場とは情報量がまるで違った。
帰国してから日本でこの言葉を意識的に探したけれど、業界資料には出てきても消費者向けの記事ではほぼ見かけない。でも世界では確実に共通言語になっていて、IWSR(飲料市場調査会社)のレポートでも頻出する。今日はこのNoLoという総称が何を指していて、なぜ重要なのか、自分が調べた範囲で整理します。
正直、最初は「ノンアルでよくない?」と思ってた。でも調べていくうちに、この言葉がカバーする範囲の広さと、市場を語る上での便利さに納得した。読み終わるころには、棚の見え方が少し変わると思います。
ノーロー(NoLo)の定義|No Alcohol と Low Alcohol を束ねる言葉
NoLoは英語圏で2018年ごろから流通し始めた業界用語で、No Alcohol(ノンアルコール)と Low Alcohol(低アルコール)を一括りにした総称です。IWSRやKPMG、Mintelといった市場調査会社が定義を整理していて、おおむね以下の範囲を指します。
No Alcohol は 0.0%〜0.5% まで。Low Alcohol は 0.5%〜3.5% まで(国や調査会社によって上限が変わる)。つまり、アルコール度数0.00%のドライゼロも、3%の微アル日本酒も、全部まとめてNoLoと呼ぶ。ジャンルではなくレンジで定義しているのが特徴です。
日本語で言うと「ノンアル・低アル市場」が一番近い。でも一語で言い切れる便利さがあって、海外の業界レポートを読むときはNoLoという単語を知っているだけで読みやすさが全然違います。「NoLo segment grew by 7%」みたいな書き方は、毎週どこかしらの英語メディアで目にする頻度です。
No と Low の境界はどこ?
境界線は国によって違うのが厄介なところ。イギリスは2018年に基準を変えて、Alcohol Free が0.05%以下、De-alcoholised が0.5%以下、Low Alcohol が1.2%以下と細かく定めました。EUは0.5%以下をAlcohol Free相当とすることが多く、ドイツやスペインもこれに近い。
アメリカは0.5%未満を Non-Alcoholic、それ以上を Reduced Alcohol と呼び分けます。日本は酒税法で1%未満を「ノンアルコール飲料」と扱い、業界自主基準で0.00%を別格にしている。この国別の違いについては、日本・EU・米国・豪州で違うノンアルの定義でかなり詳しく整理したので、合わせて読むと立体的に理解できると思います。
つまりNoLoという総称は、こうした国別の細かい違いを一旦脇に置いて、「お酒の代わりに選ばれる飲料群」を大きく束ねるための言葉。実用主義的で、業界が市場を語るときに必要だったから生まれた、というのが正直なところだと思います。
なぜ「ノンアル」だけでは足りなくなったのか
2010年代後半まで、業界はノンアル(Non-Alcoholic)という言葉だけで足りていた。でも市場が変わった。特に2019年にアサヒビアリーが0.5%の微アルというカテゴリを切り開いてから、日本でも「0.00%」と「0.5%」を別物として扱う流れが定着した。
世界では同じことがもっと早く起きていた。Heineken 0.0が2017年に出てから、各社が0.0%系と1〜3%系の両方を別ラインで展開するようになって、ジャンルではなく度数レンジで語る必要が出てきた。そこで便利だったのがNoLoという括り方です。
もう一つの理由は、消費者の動機が多様化したこと。健康のために完全に0%を選ぶ人、お酒の風味は欲しいけど量は減らしたい人、運転や仕事の合間でも飲める軽い一杯が欲しい人。動機がバラバラなのに、業界としては「お酒を控える人向け飲料」として一つの市場で語りたい。その器がNoLoでした。
ソバーキュリアスとNoLoの関係
NoLoという業界用語が広まった背景には、ソバーキュリアスというライフスタイル文化の浸透があります。「あえて飲まない」を選ぶソバーキュリアスの定義はノーロー市場の精神的な土台になっていて、両者は車の両輪のような関係です。
消費者文化が「飲まない or 減らす」という選択を許容するようになったから、業界もそれに応える商品群を体系化する必要があった。だからNoLoは単なる業界用語ではなく、社会の価値観の変化が言葉になったもの、と言える気がします。
NoLo の内訳|どんな飲料カテゴリが含まれるのか
NoLoはレンジで定義された総称なので、中身は多彩。ビール、ワイン、スピリッツ、カクテル、日本酒、スパークリング、サワー、ハイボール、すべて含まれます。整理すると以下のような構造になります。
| 区分 | 度数レンジ | 代表的なカテゴリ | 代表銘柄 |
|---|---|---|---|
| No Alcohol(ノンアル) | 0.00%〜0.5% | ノンアルビール、ノンアルワイン、モクテル | ドライゼロ、ヴェリタスブロイ、ヒューガルデン・ゼロ |
| Low Alcohol(低アル・微アル) | 0.5%〜3.5% | 微アルビール、軽めのワイン、低アル日本酒 | アサヒビアリー、サントリーほろよい系の一部 |
| Mid Alcohol(参考) | 3.5%〜8% | 通常ビール、軽めワイン | NoLo範囲外 |
注目したいのは、ビアリーのようなレギュラー商品の半分の度数(5%→0.5%)の存在が市場を分厚くしていること。完全0%だと物足りないけど、3〜4%は飲み過ぎな気がする、という間を埋めるニーズに正面から応えていて、ここがNoLo市場の伸びしろだと言われています。
ワイン領域だと、脱アルコール製法で作られる0.0%〜0.5%のスティルワインと、もともと度数が低い5%前後のフリッツァンテのようなものは別ジャンルとして扱われる。スピリッツ領域ではノンアルジン・ノンアルラムが0.0%中心で、低アル枠はほぼなし。カテゴリごとに No と Low の比率が違うのも面白いところです。
日本市場での内訳
日本のNoLo市場は圧倒的にビール系が中心。次いでチューハイ系、ワイン系、カクテル系の順。ノンアル日本酒や焼酎はまだ品揃えが少なく、選択肢が限られています。コンビニの棚を見ると、ノンアルビールが10〜15種類あるのに対してノンアル日本酒は1〜2種類、というのが現状の偏りです。
でもこの偏りは、伸びしろでもある。ワイン領域は脱アルコール技術の進化で品質が劇的に上がっているし、ジン・ラム領域は日本でも徐々に専門ブランドが立ち上がってきている。5年後の棚は今とはかなり違うものになると思ってます。
世界のNoLo市場規模|数字で見る成長スピード
IWSRの2023年レポートによると、世界のNoLo市場は2022年に約110億ドル(約1兆6500億円)に達して、2026年までに年平均7%超のペースで成長する見通し。同じ期間のアルコール飲料全体の成長率は1%前後なので、NoLoがいかに突出しているか分かります。
国別だと、伸び率トップはアメリカ。クラフトNAビール(Athletic Brewingが代表)が市場を牽引していて、年率20%を超える成長を続けている。アメリカのクラフトNAビール市場の爆発的成長については別記事で詳しく書いたので、関心ある方はそちらも。
絶対値で大きいのはドイツとスペイン。ドイツはノンアルビールが市場の8%を占めていて、世界一の浸透率。スペインはノンアルビールがビール全体の14%という驚異的な数字で、ヨーロッパの中でも別格です。日本はノンアルビール市場でアルコールビール対比5〜6%程度なので、まだ伸び代がある。
アジア市場の勃興
注目はアジア。中国・韓国・日本・東南アジアを合わせた市場は、年率10%以上の成長予測。特に中国の若年層の飲酒離れと、韓国の健康志向の高まりが追い風になっていて、5年後にはアジア全体で北米市場に匹敵する規模になる、というのがコンサル各社の見通しです。
日本のメーカーから見ると、これは大きなチャンス。アサヒ・キリン・サントリーは長年ノンアル開発で蓄積があって、技術力では世界トップクラス。あとは輸出戦略をどう組むか、というフェーズに入っていて、業界の中の人と話しても期待値が高い領域です。
NoLo を選ぶ消費者は誰か|動機の多様化
「お酒が飲めない人」だけが買っていた時代は終わりました。今、NoLoを買う人の動機は5〜6パターンに広がっています。それぞれが完全に独立した市場セグメントになっていて、商品開発もそれに合わせて細分化している。
- 完全断酒派(健康・宗教・体質・回復中)
- ソバーキュリアス(あえて選んで控える)
- シーン限定派(運転前・仕事の合間・妊娠中)
- 量を減らしたい派(休肝日、ダイエット、翌日の体調管理)
- 味として好き派(ノンアルそのものを嗜好品として楽しむ)
- マインドフル派(意識的に「今日は飲まない」を選ぶ)
このうち成長率が一番高いのが「量を減らしたい派」と「マインドフル派」。完全に断つのではなく、お酒との距離を自分でコントロールしたい、という発想です。マインドフル・ドリンキングという新しい潮流もこの流れの中にあって、NoLo市場の主な購買層を形成しています。
面白いのは、ヘビーユーザーほど0.00%ではなく0.5%や3%を選ぶ傾向があること。完全0%は「お酒の代わり」、低アルは「お酒の延長線」として捉えられていて、買う場面も違う。家で平日に飲むなら0.00%、週末や外食では低アル、という使い分けをする人が増えている印象です。
Z世代と NoLo
世代別に見ると、Z世代(1996年以降生まれ)のNoLo選択率が突出しています。アメリカの調査では、Z世代の約30%が「お酒を飲まない、または極端に減らしている」と回答していて、これは前の世代より10ポイント以上高い。日本でも同じ傾向が報告されています。
理由は健康志向だけじゃない。SNS時代に酔っ払って失敗するリスクを避けたい、メンタルヘルスを大事にしたい、お金の使い方を見直したい、といった複合的な動機が背景にある。NoLoは「我慢の選択肢」ではなく「賢い選択肢」として受け止められている、というのがZ世代の特徴です。
なぜ日本でNoLoという言葉が広まらないのか
世界の業界用語なのに、日本ではほぼ浸透していない。これにはいくつか理由があると思ってます。
まず、日本には「ノンアル」と「微アル」という日本語の言葉がすでに定着していて、わざわざ英略語で束ねる必要性が薄い。ノンアル=0.00%、微アル=0.5%前後、という認識が消費者の中で固まっているので、メーカーもこの分かりやすさを優先しています。
もう一つは、酒税法と業界自主基準の縛り。1%未満をノンアルとして扱う日本では、海外のNoLo(最大3.5%まで含む)の枠組みをそのまま当てはめると消費者を混乱させかねない。なので業界としてもNoLoという言葉を前面に出すメリットが薄いんだと思います。
でも、海外展開を視野に入れているメーカーや、業界レポートを読み込んでいる人にとっては、NoLoは避けて通れない言葉。日本のノンアル市場を世界基準で語るときには、必ずこの単語が出てきます。覚えておいて損はない。
日本式の用語整理との対応
もし日本の用語に無理やり当てはめるなら、こう考えるとスッキリします。No Alcohol=ノンアル(0.00%〜1%未満、業界自主基準で0.00%が主流)、Low Alcohol=微アル(0.5%〜3.5%、最近は「低アル」とも)。ノンアル業界の専門用語50選でも触れていますが、業界の中の人と話すときは、この対応関係を頭に入れておくと話が早いです。
NoLo がこれから変えていくもの
NoLoという言葉が広まることで、業界の風景がどう変わるか。自分が感じている変化を3つ書いておきます。
1つ目は、棚の作り方。今までは「ノンアルコーナー」と「お酒コーナー」が分かれていたけど、海外ではこの境界が溶け始めている。ロンドンのスーパーで見たように、ビール売り場の中にノンアルと微アルが混在している陳列が増えていて、選び方の発想自体が変わる。日本のコンビニや酒屋も、徐々にこの方向に動くと思います。
2つ目は、飲食店のメニュー設計。お酒のペアリングだけでなく、NoLoペアリングが一つのジャンルとして確立されつつあって、ミシュラン星付きレストランがノンアル・低アルのコースを出すのが当たり前になってきた。日本でも東京の一部高級店では既に始まっていて、これからレストラン業界全体に広がっていくはず。
3つ目は、価格帯の上方拡張。今までノンアルは「安いお酒の代わり」として価格を抑える発想で作られていた。でもNoLoという概念が広まると、プレミアム帯(1本800円〜1500円)の商品が成立しやすくなる。すでにスピリッツ系のSeedlipやLyre’sがこの価格帯で世界展開していて、日本にもこの流れが来ます。
よくある質問
Q1. NoLoとノンアルは同じ意味ですか?
厳密には違います。ノンアル(Non-Alcoholic)は0.00%〜1%未満(日本の定義)を指す言葉で、NoLoはそれに加えて3.5%程度までの低アル・微アル飲料も含む総称。NoLoの方が範囲が広く、ノンアルはNoLoの中の「No」部分にあたる、という関係です。
Q2. 日本でNoLoという表記がついた商品はありますか?
2026年現在、日本国内向けのパッケージにNoLoと書かれた商品はほぼ見かけません。輸入品の一部や、輸出向けの日本メーカー商品の英語表記には登場します。日本の消費者向けにはまだ「ノンアル」「微アル」「低アル」という日本語が使われ続けると思います。
Q3. NoLoの上限が3.5%なのはなぜですか?
明確な国際統一基準はないのですが、IWSRをはじめ多くの市場調査会社が3.5%を区切りにしています。理由は、一般的なビール(5%)の3分の2程度の度数を「軽い」と感じる人が多いこと、そしてこのレンジで作られる商品が技術的にも市場的にもひとつのクラスターを形成していること。調査会社によっては1.2%や2%を上限にする例もあります。
Q4. 微アル(0.5%)はお酒扱いですか?
日本の酒税法では、1%以上が酒類。0.5%は酒類ではなく「清涼飲料水」扱いになります。ただし業界の自主規制で20歳未満には販売しないことになっていて、運転前は避けるべき。法律上のお酒ではないけれど、お酒に準じる扱い、というのが実態です。
Q5. NoLo市場が成長しているのに、お酒業界は困らないんですか?
むしろ大手のお酒メーカーが積極的にNoLo領域に投資しています。Heineken、ABInBev、Diageoといった世界的なアルコール大手は、すべてノンアル・低アルブランドを傘下に持っていて、ここを次の成長ドライバーと位置づけている。日本でもアサヒ・キリン・サントリー・サッポロが同じ戦略で、お酒からNoLoへ顧客が移っても自社内で完結する設計になっています。
Q6. NoLoを始めるなら最初に何を試せばいいですか?
普段ビールを飲む人なら、まずノンアルビールの定番(ドライゼロ、オールフリー、ヒューガルデン・ゼロあたり)を試して、次に0.5%の微アル(アサヒビアリーなど)に進むのが分かりやすい。ワイン好きなら脱アルコール製法のノンアルワインを、カクテル好きならノンアルジン(Seedlipなど)から入ると、NoLoの幅広さを実感できると思います。

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